シキミ科の樹木シキミIllicum anisatumは、果実・種子・葉などの全植物体に神経毒アニサチンを含む猛毒植物である。だがシジュウカラ科の鳥類ヤマガラSittiparus variusは、このシキミの種子を食べ、一部を林床に貯えることで植物の分散に寄与している。ヤマガラはシキミにとって決定的な種子散布者であり、この樹木と密接な相利関係を結んでいることがわかっている。本研究はこのヤマガラとシキミの特異な相利共生関係に注目し、その生態と進化のプロセスの解明を目指す。本研究では、この相利関係がヤマガラと他の生物の相互作用に与える波及効果に注目し、ヤマガラの摂取した植物毒が、寄生者を減少させる駆除効果をもつという仮説を立て、これを検証する。 今年度も、かすみ網を用いてヤマガラ個体の捕獲を行い、糞などの体組織を採取した。これらのサンプルと昨年までに日本各地で捕獲したヤマガラならびにスズメ目鳥類から採取した糞サンプルを併せて、18s rRNA遺伝子領域のユニバーサルプライマーを用いたメタバーコーディングを行い、内部寄生者の検出を行った。その結果、これらの鳥類から多様な内部寄生者を検出した。ヤマガラでは約26%の個体から、コクシジウム、吸虫類、条虫類、サナダムシ類などの内部寄生者が検出された。ヤマガラ個体について、内部寄生者の検出の有無と、捕獲サイト付近のシキミの有無との関連を分析したが、両者の間には明確な関連は見られなかった。なお、先行研究ではシキミの種子を利用する動物としてヤマガラ・ヒメネズミが知られていたが、新たにアカネズミも種子を散布する可能性が判明したため、この知見について論文化を進めた。
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