研究課題/領域番号 |
19K06848
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
秋元 信一 北海道大学, 農学研究院, 教授 (30175161)
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研究分担者 |
神戸 崇 北海道大学, 農学研究院, 専門研究員 (40648739)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 有性生殖 / 無性生殖 / アブラムシ / クローン / 遺伝子頻度 / マイクロサテライト |
研究実績の概要 |
エンドウヒゲナガアブラムシの有性生殖系統と無性生殖系統の日本列島における分布とその季節的変遷を解明するために,日本における有性生殖系統の南限である青森県八戸市馬淵川河川敷において2019年度3回の調査を行い,十分な量のアブラムシサンプルを確保した.得られたアブラムシから核DNAを抽出し,5つのマイクロサテライト遺伝子座に対して遺伝子型を決定する作業を進めている.サンプルが膨大なため,全ての遺伝子型決定には至っていないが,全サンプルの電気泳動までは終了している. 無性生殖系統の遺伝子型の多様性と構成を調べるために,3月21日には千葉県柏市で無性生殖系統の越冬明け個体を採集した.こうしたサンプルに基づき10年前の同地における無性生殖系統の遺伝子型構成との相違を明らかにする予定である.こうした比較により,温暖化の進展によって同地の遺伝子型にどのような変化が起こったのかを解明できる. 無性生殖系統の系統学的起源を探る研究においては,大きな進展が見られた.無性生殖系統と有性生殖系統の様々なクローンから核遺伝子(EF1α)をクローニングし,対立遺伝子のそれぞれの塩基配列を解読した.無性生殖系統と有性生殖系統クローンの配列を合併して系統樹を作ったところ,年を超えて広範に存続する本州の主要クローン(スーパークローン)は,交雑起源であることがほぼ解明された.しかも日本国内の系統間の交雑ではなく,アジア大陸に分布するVicia amurensis寄生系統とVicia sativa寄生系統間の交雑が元になったクローンであると推定された.このことから,本州に分布する無性生殖クローンの起源は意外に古く,大陸で交雑個体が数を増し,その一部が日本列島に侵入したと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
無性生殖系統の系統学的起源に関しては,大きな成果が得られたが,使用している無性生殖クローンの数がまだ少ないため,次年度もさらに分析を進める必要がある.しかし,無性生殖系統が交雑起源であることが明確に示されたことは,これまでの常識を覆すことができる大きな発見であった.多くの害虫を含むアブラムシの無性生殖系統において,同様のことが言えるかどうかは,大変興味深い問題である. マイクロサテライト分析に関しては,全ての泳動結果が得られているが,遺伝子型の決定及び遺伝子型頻度の分析にまで,残念ながら至っていない.解析終了まで,さらに実験を追加し,遺伝子型の決定を急ぎたいと考えている. 性をめぐる競争実験に関しては,暫定的な実験を行い,性比が状況によって変動する可能性を明らかにすることができた.今後はさらに実験数を増やして,明確な結果を得たいと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は2019年に採集したサンプルのマイクロサテライト分析に全力を注ぎたいと考えている.10年前に八戸市で採集したエンドウヒゲナガアブラムシ無性生殖クローンのDNAサンプルも保存されているために,かつてのクローンがどの程度生き残っているのか,あるいはその比率に変動は見られたか否かを分析する予定である.同時に,本年夏と秋にも採集を行い,遺伝子型頻度が年を超えてどのような変動を示すのかを明らかにする. 無性生殖系統の系統学的分析に関しては,ヨーロッパに分布する無性生殖系統のサンプルを入手し,そのサンプルを含めた系統分析を試みる.日本以外の無性生殖タイプのエンドウヒゲナガアブラムシが,日本のものと同様,交雑をきっかけに無性生殖タイプとなったか否かを解明できると期待できる. 有性生殖クローンと無性生殖クローンとの実際上の競争の帰結を明らかにするために,寒天培地を使った研究をスタートさせる.2019年度には,暫定的に冬季間無性クローンを野外に出し,越冬可能であることを確認した.本年度から本格的に実験を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費,旅費はほぼ計画通りであったが,遺伝子実験の指導を依頼した当研究室のポスドクが多忙となり,一部の項目の指導にとどまったことが大きな理由である.しかし,本年は十分な指導が可能となるために,繰り越した額を人件費に当てることができると考えている.
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