日本に広く分布する在来種のナメクジと、外来種のチャコウラナメクジについてそれぞれの生態を解明するために野外調査と、飼育環境での観察や実験を行った。これまでの研究から、チャコウラナメクジの性成熟と産卵は日長が短いことと15℃程度の低温環境が必要であることが分かっているが、ナメクジでの産卵条件は明らかになっていなかった。24時間のうち明るい時間を変えた2つの条件で、それぞれ野外で採集した未成熟個体を最長10カ月飼育した。本種ではどちらの条件でも産卵が見られたが、その数は少なく、また、ふ化率も高くはなかった。チャコウラナメクジは、野外では遮蔽物と地面に生じる隙間などに産卵をし、これは飼育環境でも見られる。一方、ナメクジは飼育環境では、容器の壁面に付着させるように産卵をしており、産卵基質の嗜好性が種間で異なっている可能性が示された。卵および卵を覆う粘性の物質の有無が種間で異なっており、それぞれの種が好む生息環境の違いを反映している可能性が高い。 一部の肉食性の種を除き、ナメクジ類は雑食である。具体的にどのようなものを食べているのかは、野外観察では明らかにならなかったため、フンに含まれるDNAから食べている物を調べられるかどうか解析を行った。チャコウラナメクジの野外個体では、1個体からでは十分な量のフンが得られなかったため、同じ隠れ場所にいた数匹を同時に採集し、2日に渡ってフンを採集することで解析に十分な試料を得ることができた。解析結果から、冬季でもチャコウラナメクジは幅広い種の植物を食べており、活発に移動していることが示唆された。同様の調査をナメクジでも行う予定であったが、同じ時期に採集することができなかった。
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