研究実績の概要 |
本研究は化学反応をエネルギー源とする微生物(化学合成微生物)のうち、特に反応当たりのエネルギー獲得量が非常に低い微生物を対象とし、彼らに特有の個体群ダイナミクス・個体群相互作用・進化動態の理解を試みることを目標とする。このような微生物は地下圏(深海や地殻内部)に多く見られ、約70 Gt Cの炭素量として存在すると推測されている[1]。この生物群集は量的に重要というだけでなく、物質循環過程と生命の進化史と密接に関連する。 低エネルギー反応を利用する微生物の個体群動態の基礎モデル[2]を利用し、代謝産物の利用がエネルギー獲得を介して微生物共存を促進するメカニズムについて解析した。一般的に、種Bが種Aの代謝産物を利用する場合、種Aの存在は種Bの増殖に正の影響を与える。しかしながら、熱力学的な観点を導入すると、種Bが種Aの代謝産物を利用することで、種Aが反応から獲得するエネルギー量が増加することがあり、種Bの存在は種Aの増殖に正の影響を与える。我々はこの効果をAbundant Resources Premiumと名付け、従来の生態学で見過ごされてきた相利共生の可能性を指摘した。 また、[2]のモデルを利用し、特定環境(火星)における化学合成微生物(好気性メタン酸化菌)の増殖可能性を検証した。火星は過去もしくは現在において生命の存在が期待される地球外惑星の1つであり、大気中にメタンの存在が確認されている。地球の好気性メタン酸化細菌のデータに基づき、火星における好気性メタン酸化菌の増殖シミュレーションを実施したところ、生存は可能であるものの増殖速度が遅すぎるため増殖は困難であるという結果が得られた。
[1] Bar-On et al. (2018) PNAS, 115(25), 6506 - 511 [2] Seto and Iwasa (2019) JTB, 467, 164 - 173
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は本研究テーマを構成する3つのサブテーマのうち2つのサブテーマについて概ね研究を完遂した。これまでにAstrobiologyとEcology Lettersにそれぞれ1本ずつ論文が受理され [1,2]、現在1本の論文を投稿中である。また、本成果について国際的な学会とシンポジウムで合計2件、国内の学会とシンポジウムで合計4件発表した[一例として3]。
[1] Seto, M. and Iwasa, Y. (2019) The fitness of chemotrophs increases when their catabolic by-products are consumed by other species, Ecology Letters, 22 (12), 1994 - 2005 [2] Seto, M., Noguchi, K., and Van Cappellen, P. (2019) Potential for aerobic methanotrophic metabolism on Mars, Astrobiology, 19 (10), 1187 - 1195 [3] Application of bioenergetics in astrobiology and ecology、Ecohydrology Research Symposium、2019/12/06 [4] Catabolic mutualistic interactions can lead ecosystem expansion、24th International Symposium on Environmental Biogeochemistry, 2019/09/23
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