研究課題/領域番号 |
19K06853
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
瀬戸 繭美 奈良女子大学, 自然科学系, 助教 (10512717)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 化学合成微生物 / 個体群動態モデル / 地球微生物学 / 生体エネルギー論 / 化学合成無機独立栄養 |
研究実績の概要 |
本研究は「低エネルギー反応を化学合成に用いる微生物の個体群動態モデルを構築し、光や好気呼吸を利用しない栄養形態に特有の個体群ダイナミクス・個体群相互作用・進化動態の理解を試みる」ことを目的とする。1年目に個体群動態モデルの構築と基礎的な解析を終えたため、2年目に当たる当該年度では特に化学反応を介して互いの増殖に影響し合う2群間の個体群相互作用に着目した研究を展開した。その結果、低エネルギー反応を化学合成に用いる微生物においては (1)種(あるいは機能群)Aが生成物を種Bに与え、種Bは種Aの生成物を利用することで種Aのエネルギー獲得反応のエネルギー生産性を増加する。 (2)種Aが種Bの生成物を利用し、種Bが種Aの生成物を利用する。 という2つの相利共生が成立することがあり、バイオマス生産性と物質フローを増加し、新たなニッチを獲得する可能性を理論的に示すことができた。この結果は、これまで理論生態学が対象としてきた生物群集では見過ごされてきた種間相互作用を提案する発見であり、生態学だけでなく生物地球化学においても重要な知見である。 当該年度内の研究成果はProceedings of Royal Society B誌(https://doi.org/10.1098/rspb.2020.0610)とFrontiers in Ecology and Evolution誌(https://doi.org/10.3389/fevo.2020.602809)に1報ずつ受理され、既に公開されている。また、当該年度内の日本数理生物学会並びに日本生態学会にて、本研究に関する研究成果の口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は以下の3つのサブテーマから構成される。 1. 低エネルギー反応を利用する微生物に特有の個体群ダイナミクスの理解 2. 低エネルギー反応を利用する個体群間の共生維持機構の考察 3. 低エネルギー反応を利用する個体群の進化動態シミュレーション 2年目に当たる当該年度までにサブテーマ1,2を完了することができ、既に研究成果を国内・国際的に発表した。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の研究により、低エネルギー反応を化学合成に用いる微生物において2つの個体群に着目した時、特有の相利共生関係が発生することが明らかになった。化学合成微生物群集においてはしばしば本理論研究で示した相利共生関係が実際に観察されている。一方で、化学合成微生物たちはエネルギー獲得のための基質を巡って競争する関係にある。一般的に、相利的ふるまいは進化的に安定な戦略でないことが多く観察されており、化学合成微生物群集における相利共生が確立するメカニズムに興味が持たれる。現状このメカニズムを明らかにするための理論研究を展開しており、最終年度内に完了・研究成果を報告できる見通しである。
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