• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2022 年度 実施状況報告書

送粉共生系における毒性花蜜の進化生態学的意義を探る

研究課題

研究課題/領域番号 19K06854
研究機関奈良女子大学

研究代表者

井田 崇  奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (00584260)

研究分担者 高梨 功次郎  信州大学, 学術研究院理学系, 准教授 (10632119)
研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2024-03-31
キーワードアルカロイド / 送粉者 / 植食者 / 送粉効率 / 資源分配 / 繁殖成功 / 毒性花粉 / 毒性花蜜
研究実績の概要

本研究は毒性花蜜や毒性花粉の送粉共生系における機能を明らかにし,それが植物の繁殖成功にどのように寄与し,進化生態学的意義を明らかにすることである.過年度において毒性花蜜だとされた花蜜にアルカロイドは含まれず,それ以外の花粉を含む花には相当量が含まることが明らかになった.また植物が持つアルカロイドはシカなどによる食害を防ぐ効果はみられるが,花粉媒介者への短期的な影響は限定的であることも明らかになった.R4年度は,特に毒生産と繁殖投資の関係を中心とした資源分配戦略に着目し,個体群内における環境傾度に沿った防御,成長,繁殖投資における個体間変異を明らかにする調査を行った.野外調査で,成長特性として葉の経済的特性やサイズ,防御特性としてアルカロイドの定量,繁殖特性として花や種子生産量の計測や花粉制限の評価,を行った.また調査対象個体に対し,光環境を全天写真により評価した.分布の中央からエッジにかけて光有効性は減少しており,それに伴い各形質も異なった.光有効性の増加に伴い,成長と花生産への投資が増えたが,アルカロイド生産量は減少した.一見すると繁殖と防御の間にトレードオフがあるように見受けられるが,葉の経済的特性などの変異を考慮するとむしろ光有効性に応じた窒素・炭素要求の違いによる両者のバランスだと解釈された.例えば弱光環境においては光合成が制限され余剰窒素が防御に再利用される.成長,繁殖への投資量減少は花粉制限を介し繁殖成功が制限された.一方で防御への投資量減少によりシカによる食害が増えることはなかった.アルカロイド生産が多いほど個体ほど花生産は減少することを介し送粉成功は減少するが,そのアルカロイド生産の増加は余剰窒素によるものであり,繁殖成功の低下はむしろ炭素資源不足によるものであるといえる.研究当初の予測とは異なり,アルカロイドの送粉生態系への影響は限定的であるかもしれない.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

野外調査やそこで得られたデータの解析については順調に進展しており,本研究の目的である送粉生態系における毒性花粉・花蜜の意義については徐々に明らかになっている.唯一,進捗が滞っているのは遺伝分析である.現在行っている遺伝分析により,この種特有の遺伝組成により分析そのものに工夫が必要なことが明らかになっている.そのため,分析手法の選定のための予備実験に時間を要している.遺伝分析の結果は,本研究の対象種の繁殖成功を評価する上でも,個体群動態を評価する上でも重要な結果をもたらすことが予想される.これらはこのプロジェクトの成果を一段階高めることが期待されるため,ぜひとも実施したいと考えている.コロナ禍によるデスクワーク量の増加も年度終盤には落ち着いてきたため,次年度には時間を確保し完遂する.

今後の研究の推進方策

これまでの調査,解析により,調査対象種であるトリカブトは,植物体内に毒(アルカロイド)を持つことで,哺乳類などの植食者(敵対者)に対する防衛を高めるとともに,花蜜には毒を含まないことで送粉者や送粉生態系そのものに直接的な効果を与えないことがわかってきた.また,個体内における毒生産への投資と繁殖生産への投資には負の関係があるが,これはトレードオフというよりも個体群内個体間における環境傾度に沿った資源分配戦略の結果だとみられる.現在,遺伝分析による繁殖成功の評価,および個体群内での資源分配の変異が遺伝的なものであるのか可塑的なものであるのかの評価が未解決の問題として残っている.前者は,当初予定していた雄繁殖成功の評価に不可欠であるし,また後者は個体群動態を知る上で重要な情報である.特に近年シカによる食害が様々な植物に影響を与えることが問題視されているが,トリカブトのような毒を持つシカにとっての不嗜好性植物はその限りではないものの,それはほとんど評価されていない.トリカブトの遺伝構造を知ることで,現在どのように分布拡大しており,どのような送粉生態系を維持あるいは変化させているのかを知ることで,送粉生態系への影響にとどまらない,生態系全体に波及する効果を検証できるかもしれない.次年度の分析と解析をもって,送粉生態系や草食の大型哺乳類を含めた生態系全体における生物間相互作用において,毒が果たす役割を明らかにすることを目的とする.

次年度使用額が生じた理由

研究内容にある遺伝分析を行う予定であったが,分析そのものの困難さから当初予定通りには進捗していない.現在,適切な分析を行うための予備分析を行っており,これらについてはすでに購入済みの試薬で行っているため,新たな支出はなかった.適切な分析手法を確定した後,本分析を行うため,そこで予算残額は使用する予定である.

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2023 2022

すべて 学会発表 (3件)

  • [学会発表] 送粉者不足による開花延長は種子生産を補償するのか?2023

    • 著者名/発表者名
      今村咲稀,井田崇
    • 学会等名
      日本生態学会
  • [学会発表] 生態系の季節性が虫媒花植物の繁殖フェノロジーに与える効果2023

    • 著者名/発表者名
      井田崇,工藤岳
    • 学会等名
      日本生態学会
  • [学会発表] 淡水巻貝における捕食リスク下の産子調節とその刺激因2022

    • 著者名/発表者名
      村田志帆,井田崇,遊佐 陽一
    • 学会等名
      日本生態学会近畿地区会

URL: 

公開日: 2023-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi