研究課題/領域番号 |
19K06858
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
永島 咲子 首都大学東京, 理学研究科, 特任助教 (20637037)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 環境型 / 膜タンパク質 / 進化 / 光合成反応中心 |
研究実績の概要 |
細菌が適応放散の過程で温度やpH、栄養塩類などの多様な環境中に適応するために環境型として進化する過程を明らかにすることを目指している。膜タンパク質はペリプラズム側が外界の影響を多く受けるため、細胞質側より進化速度が速いことが多くの細菌の全タンパク質を対象とした研究で示唆されている。このことから、タンパク質のペリプラズム側により多くの変異が蓄積されており、機能構造が環境に適応して進化した過程を明らかにできると予想した。本研究では機能構造がよく調べられている光合成膜タンパク質複合体(RC)を対象とした。RCはL、Mサブユニットを基本とし、細胞質側にHサブユニット、側面を集光膜タンパク質が取り囲む構造をしている。この複合体を一つの巨大膜タンパク質と捉えて詳細に調べることとした。対象とするPorphyrobacter属の細菌群は、近縁の海洋性好気性光合成細菌と異なり、海水・淡水・温泉水域に広く分布する。 Porphyrobacter属の光合成細菌および近縁種のRCのL、Mサブユニットのアミノ酸1次構造をペリプラズム、膜内、細胞質の3領域に区分し、それぞれを連結した配列に基づいて系統樹を作成したところ、16S rRNAに基づく系統樹と異なり、生息域ごとにクラスターを作ることがわかった。さらに立体構造に基づいて各アミノ酸の保存性を調べたところ生育環境ごとに進化的特徴が見られた。さらに、川底のバイオフィルムから海洋性のPorphyrobacter sanguineusの環境型を得て、両者の光合成反応中心タンパク質の比較から、複合体の機能や構造への生育環境による変異の特徴を見出すことが出来た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)実施予定の解析をせずに当年度の目標を達成したため 当初は遺伝子の水平伝搬による影響を避けるために特定の属レベルの小集団から始めて対象を広げていくことを想定していた。しかし、RCの膜タンパク質には、当初の予想よりも明確に生育域ごとに特徴的な変異があることがわかった。また、これらが他のタンパク質との相互作用によるとの示唆を得たので、想定していた網羅的な系統解析によって得る予定の知見の主要部分を見出すことが出来た。また、海洋と淡水あるいは温泉と河川など明確に異なる環境から環境型を遺伝子アンプリコン解析によって得ることを当年度の目標としていたが、海洋と河川に生息する環境型を得たので、当座の遺伝子アンプリコン解析が必須でなくなった。 (2)当年度の結果から、他のタンパク質との相互作用に関して当初想定していたより具体的な作業仮説を得たため。 特に海洋性細菌と淡水性細菌との光合成器官の比較において、外界のイオン強度に対してタンパク質表面の荷電アミノ酸全般に変異が起きるのではないかと予想していたが、特定の部位に変異が集中しており、ここから他のタンパク質との相互作用についての新しい仮説を得た。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画の内、新規の環境型を得るための野外試料からの分離や網羅的な解析部分を減らしてデータベースを活用する。また、ゲノムシークエンスを行い、光合成器官に関連した別の膜タンパク質との比較や比較ゲノム解析によって個々の膜タンパク質以外の特徴を得る。さらに、環境型の光合成反応中心と他のタンパク質との相互作用の違いを明らかにするために培養実験やタンパク質の精製を試みる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究は光合成微生物の環境型を対象とするため、既存の株に加えて環境中の光合成細菌の採集の一貫としてアンプリコン解析やメタゲノム解析を予定していた。しかし、環境中からの通常の集積培養から目的とする環境型を得たため、ひとまずアンプリコン解析を取りやめ、代わりに単離株のゲノム解析を次年度に行う。必要に応じて生理試験の対照とするために寄託株の購入を検討する。 また、これまでの解析から、環境に応じて光合成器官が相互作用するタンパク質と共進化した可能性が見いだされたため、これらを確かめるためのタンパク質精製など生理的な実験を行う。このための培養・精製に必要な物品等に使用する。
|