研究課題/領域番号 |
19K06859
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
竹内 剛 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 客員研究員 (40584917)
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研究分担者 |
秋野 順治 京都工芸繊維大学, 応用生物学系, 教授 (40414875)
藪田 慎司 帝京科学大学, 生命環境学部, 教授 (50350814)
高崎 浩幸 岡山理科大学, 理学部, 教授 (70222081)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 配偶行動 / チョウ / 汎求愛説 / 化学分析 / 昆虫 |
研究実績の概要 |
過去に発表された論文を精査して、これまでに知られているチョウの生態や行動を説明するうえで、チョウが同性というカテゴリーを認識していると仮定する必要があるかを再検討した。その結果、チョウと同種を含めた様々な動物のインタラクションは、チョウは配偶者と天敵というプロトタイプを持っていると仮定すれば全て説明でき、同性(性的ライバル)というカテゴリーを認識しているという仮定は必要なかった。にもかかわらず、過去の研究の大半はチョウが性認識していると仮定して、現象を解釈していた。つまり、そもそも観察の前提が不適当だったことになる。そこで、配偶者と天敵のプロトタイプに基づいたチョウの行動理論(汎求愛説)を構築した。その結果をまとめた論文は、現在投稿中である。 汎求愛説から、チョウには配偶者を認識するメカニズムはあるはずである。これまでの実験によって、キアゲハではそれが翅に含まれる化学物質であることが強く示唆されていた。そこで、キアゲハ雌の翅のヘキサン抽出物と雄の翅のヘキサン抽出物を、クロロホルムで化学物質を抜いたキアゲハ雄の標本(以下、標本と略す)に別々に塗布したものと、対照としてヘキサンのみ塗布した標本をの3つを、野外で性的に活発な状態のキアゲハ雄に提示した。雄は、雌の翅の抽出物が塗布された標本にのみ求愛行動を示し、それ以外の標本には一瞬触れるだけで、求愛行動は示さなかった。この結果から、キアゲハ雌の翅に含まれる化学物質が、雄の配偶行動を引き起こすうえで重要であることが分かった。さらに、雌の翅のヘキサン抽出物をヘキサン画分とエーテル画分に分けて、それぞれを別の雄の標本に塗布して提示したところ、雄はエーテル画分を塗布した標本にのみ求愛飛翔を示した。 これらの結果から、キアゲハの雄が配偶者を認識する化学物質は、雌の翅のエーテル抽出物中に含まれていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
汎求愛説の構築はおおむね予定通り進んでおり、過去の研究にもとづいてチョウの認識を再検討した汎求愛説は、すでに論文にまとめて学術誌に投稿中である。 一方、2020年度に新型コロナウィルスの感染拡大に伴って緊急事態宣言が発出されたために、野外調査がしばらく停滞していた。また、緊急事態宣言が解除された2020年夏に調査地に出かけたところ、林道が崩落して通行できない状態となっており、復旧が研究対象であるキアゲハの成虫が見られる時期の後までずれ込んだ。そのため、2020年に予定していた野外調査がほとんどできなかった。したがって、キアゲハの性認識に用いられている化学物質を明らかにする研究は、当初の予定よりも1年ほど遅れている。 チョウの配偶行動の進化を扱った数理モデルは、研究分担者が勤務校での新型コロナウィルス対応で時間を割かれたために、やや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
汎求愛説はすでに論文を投稿している状態なので、このまま論文の受理に向けて研究を進める。 キアゲハの性認識に関しては、雌の翅のエーテル抽出物に含まれる何らかの化学物質に雄の配偶行動を起こさせる能力があることは分かったので、今後はその化学物質の特定を目指す。具体的には、雌の翅のエーテル抽出物をいくつかの画分に分けて性的に活発な雄に提示し、どの画分に配偶行動を引き起こす物質が含まれているかを絞っていく。画分が絞れた段階で、GC-MSを用いた化学分析を行い、雌性フェロモンを同定を目指す。 チョウの配偶行動の進化を扱った数理モデルについては、モデルに具体性を持たせるために、パラメータとして設定しているチョウの視認範囲や移動率などを実態に合わせる方向で研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響で、参加予定だった学会がオンライン大会または中止となり、旅費を使わなかったことが主因で次年度使用額が発生した。この研究費は、今年度の学会参加や、論文のオープンアクセス費等に使用する予定である。
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