研究課題/領域番号 |
19K06863
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
柏木 健司 富山大学, 学術研究部理学系, 准教授 (90422625)
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研究分担者 |
辻 大和 石巻専修大学, 理工学部 生物科学科, 准教授 (70533595)
高井 正成 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (90252535)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ニホンザル / 洞窟 / 岩棚 / 豪雪 / 防寒 / 黒部峡谷 / 自動撮影カメラ / 自動温度ロガー |
研究実績の概要 |
黒部峡谷において引き続き、自動撮影カメラを用いた定点観測を実施した。設置地点は、サル穴とホッタ洞を含む複数の鍾乳洞(鐘釣)に加え、岩壁を穿つ廊下(仏石付近)、緩傾斜斜面(出平)、宇奈月ダム湖沿いの作業道沿いである。2019年度冬季は暖冬であったものの、短期的に入ってきた強い寒波の折に、ニホンザルによる洞窟利用が確認できた。柏木ほか(2012)では積雪量の大小が重要であるとしたものの、他の気象要因を含む十分な比較検討が行えていなかった。極端な暖冬という条件下において、急な気温低下で洞窟利用が確認されたことは、急激な気温低下や生理的な体感気温が、洞窟利用を促す重要な知見となった。加えて、イタチ、テン、キツネが洞窟に入った様子も記録できた。これら中型食肉類が洞窟に入った理由については、現時点で事例確認のみで、要因を議論できるデータは得られていない。柏木(2019)はカモシカが休息を目的に洞窟に入っていたことを予察的に報告したが、様々な哺乳類種が洞窟に出入りしていることから、今後、その理由等について仔細を明らかにしていく必要がある。 仏石下流では、明治期に利用され現在は放棄されている旧林道を、ニホンザルを含む様々な哺乳類種が移動に利用している様子が、カメラに記録された。記録された哺乳類種は、ハクビシン、キツネ、カモシカなどである。ニホンザルは、旧林道のうち短いトンネル区間で、厳冬期にサル団子を作り暖を取っている様子が記録できた。 豪雪地域の地域間比較として、石川県白山市と青森県下北半島での調査を計画した。石川県白山市では洞窟調査を実施したものの、ニホンザルによる洞窟利用は確認できなかった。青森県下北半島においてニホンカモシカの利用実績のある廃坑調査を実施した。しかし、8月末の調査の際に洞内にスズメバチが営巣しており、洞内の糞調査とカメラ設置はできなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナによる様々な制限があり、調査許可申請の受理の遅れに加え、大学による移動制限が影響し、予定通りの調査を実施できなかった。黒部峡谷の調査では、唯一の移動手段の黒部峡谷鉄道への乗車について若干の制限があり、現地に調査に入るのが例年に比べ一月以上、遅延した。 霊長類学ないし哺乳類学関連の国際学会での発表は、新型コロナによる学会の中止と延期により、実施できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、以下の通りに研究を進めていく。黒部峡谷での自動撮影カメラと自動温度ロガーを用いた観測を、これまで通り継続する。これまで、峡谷流域の複数地点に試行的にカメラを設置し、調査の適地を継続的に探索してきた。設置地点については、研究目的を十二分に反映できる状態とできたため、今年度は設置地点の追加の試行は実施しない。これまでのデータを春季中に総括し、データを解析し論文として投稿していく。ニホンザルの洞窟利用の論文を先ずは作成し、次にニホンカモシカの洞窟利用を比較研究としてまとめる。 石川県白山市と青森県下北半島については、新型コロナの状況を注視しつつ、調査の実施を計画していく。石川県白山市は、急峻な地形で洞窟調査自体も困難を伴うことから、今年度は調査を実施しない予定である。ただし、現地のナチュラリストから新規の洞窟情報が入れば、調査を実施する。青森県下北半島は、確実な哺乳類の入洞記録があることから、再度、現地調査を実施したい。ただし、スズメバチの活動時期を外しての調査が必要である。 国際学会での発表は、現在の新型コロナの流行状況を考慮して、遠隔参加が可能な場合のみ、口頭発表を実施する。霊長類学と哺乳類学を含め、国際学会についての情報収集を進める。日本では、哺乳類の洞窟利用に関する関心は薄く、一方で霊長類を含む哺乳類の洞窟利用に関する研究は、海外で先行して進展している。関連研究者とのつながりを確保する上でも、国際学会等への出席に加え、早期の論文化が急務である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの流行に関連して、当初予定していた国際学会が中止ないし延期となり、国内調査についても一部が実施できず、必要物品(自動撮影カメラ等)の購入を行わなかったため。 次年度は、論文化を進める上での英文校正に加え、データ整理に係る人件費等に予算を集中していく。さらに、継続的な現地調査の旅費として活用し、有用な情報があれば新規地域の現地調査も実施する。 学会は国内学会に参加し、国際学会は現地参加を控える。
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