研究課題/領域番号 |
19K06864
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
今村 公紀 京都大学, 霊長類研究所, 助教 (80567743)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | iPS細胞 / 神経発生 / ヒト進化 / チンパンジー / ニホンザル |
研究実績の概要 |
初年度に論文発表したチンパンジーiPS細胞のダイレクトニューロスフェア(dNS)形成培養法による初期神経発生誘導の結果に基づき、二年度にはヒトおよびニホンザルiPS細胞を用いた初期神経発生誘導を行った。まず、ヒト/チンパンジー/ニホンザルのdNS形成過程において、初期神経発生に関わる重要な遺伝子の発現パターンを比較したところ、ニホンザル、チンパンジー、ヒトの順に発現上昇のタイミングが遅延することが明らかになった。また、ニューロン産生能が獲得される時期に注目したところ、チンパンジーではdNS形成培養3日目から5日目の間にニューロン分化能が獲得されるのに対し、ニホンザルでは培養1日目から3日目の間に獲得されることが明らかになり、神経上皮細胞(NE)-放射状グリア細胞(RG)転換のタイミングにも種差があることが示唆された。そこで、NE-RG転換を制御する分子基盤を特定するために、チンパンジーdNS形成過程のトランスクリプトームデータのパスウェイ解析を行い、dNS形成培養3日目と5日目の間ではシグナル伝達関連遺伝子の発現変動が大きいことが明らかにした。実際、チンパンジーdNS形成3日目にシグナル伝達経路の薬理学的な阻害を行ったところ、いくつかの候補シグナル伝達経路を抑制した際にRGマーカー遺伝子の発現上昇が抑制されることを見い出した。 一方、ヒト特異的な遺伝子の機能解析としては、ヒト/チンパンジー/ニホンザルのdNS形成過程で発生段階特異的かつ種特異的な発現パターンを示す遺伝子として特定したCUZD1に注目し、ヒトCUZD1遺伝子の強制発現や内在性CUZD1のノックダウン細胞の作製を行った。それらのうち、マウスES細胞にヒトCUZD1を強制発現させた場合においては、野生型のES細胞に比べて増殖能力が亢進することが認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に申請者が開発・発表したチンパンジーiPS細胞のdNS形成培養に基づき、二年度には他の霊長類種(ヒト、ニホンザル)への適用と種間比較解析を実施することができた。その結果、本分化誘導系を用いた初期神経発生における大枠の共通項と種個別の違いを見出すことができ、今後の解析において神経発生の種特異性を解明するために着目すべき取っ掛かりとなる現象を特定することができたほか、細胞の運命転換への関与が推測される複数のシグナル伝達経路を絞り込むことができた。また、ヒト特異的遺伝子の機能解析に関しても、ヒト/チンパンジー/ニホンザルdNS形成過程の遺伝子発現パターンの種間比較解析によって複数の遺伝子を特定し、中でも最も発現量が高いCUZD1について機能解析のための遺伝子改変細胞を作製することができた。以上のことから、研究計画は順当に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
まず、dNS形成培養における遺伝子発現の種特異性の精査として、ヒトiPS細胞のdNS形成過程のトランスクリプトーム解析を行い、既に所得済みのチンパンジーのトランスクリプトームとの比較解析を実施する。これにより、ヒトとチンパンジーの初期神経発生の遺伝子発現基盤を規定し、両種の特異性を明らかにする。ワシントン条約と予算上の制約から、他の霊長類種のトランスクリプトーム解析を実施することは現状困難であるが、ヒト/チンパンジーの比較解析から見出された種特異的遺伝子発現については、ニホンザルや最近作製に成功したゴリラ、オランウータンなどのiPS細胞のdNS形成培養を行い、それらを外群としてヒト特異性、ヒト科特異性、類人猿特異性、サル特異性を判別していく。また、現在認めている初期神経発生の進行におけるタイミングの種差(遅延)については、遺伝子発現プロファイルから絞り込んだシグナル伝達経路を対象に低分子化合物(活性薬、阻害薬)処理を行い、細胞運命転換への関与を検証する。一方、これまでの解析で特定したヒト特異的遺伝子発現パターンを示す遺伝子についても、遺伝子改変細胞を用いた機能解析を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
二年度は新型コロナウイルス感染症の影響で物流が世界的に滞っており物品購入に支障があったこと、および三年度に実施予定の次世代シークエンサーの経費を温存したかったことから、経費の一部を繰り越すこととした。使途としては、次世代シークエンサーの解析費を予定している。
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