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2019 年度 実施状況報告書

壮年期を終えた雄のチンパンジーにおける適応戦略

研究課題

研究課題/領域番号 19K06867
研究機関鎌倉女子大学

研究代表者

保坂 和彦  鎌倉女子大学, 児童学部, 教授 (10360215)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2023-03-31
キーワードチンパンジー / アルファ雄 / 老齢雄 / 壮年期 / 優劣順位 / 父性的行動 / 孤児 / 狩猟・肉食行動
研究実績の概要

本研究の目的は、マハレM集団の成熟雄チンパンジー約10頭を対象に個体追跡による行動観察を行い、壮年期を過ぎて老年期に移行していく雄が加齢に伴う身体的・社会的衰退にどのように適応しているかを縦断的かつ横断的に探ることであった。初年度は野外調査を実施して、特に現在の社会関係を把握することを重視した。まず、28歳雄(壮年期)PRは、8年間近く続けてきたアルファ雄の地位が揺らいでいることが判明した。地位が安定していた過年度調査では、多くの雄や雌がいる状況下でも、発情雌をガードし他の成熟雄を寄せ付けない所有的行動を伴う交尾戦術を行使していた。今回調査では、それを行わず、発情雌をコンソート(雄が特定のメスを連れ出して2頭だけで遊動する行動)に誘い出すことを繰り返す代替戦略を採っていた。したがって、しばしばアルファ雄不在の状況が生まれ、23歳(少壮期)のベータ雄MCがアルファ雄のように劣位個体から挨拶行動を受け、他の雄が毛づくろいをするのを妨害する「引き離しの介入」を繰り返していた。PRと同年齢の旧ベータ雄のORは壮年期ながら優劣順位が降下し始めており、アルファ雄やベータ雄から毛づくろいを受ける老齢雄のような社会的地位に近づきつつあった。
また、かねてから注目している38歳雄(初老期)BBと非血縁の孤児雌TO(11歳)との親和的関係も詳細に観察することができた。老齢雄の父性的行動の適応的意味も本研究が明らかにしたいテーマの1つである。
本研究のテーマである壮年期以降の雄の社会性と深く関連する狩猟・肉食行動については、1965年から続く長期調査の資料を活かした研究も行った。狩猟または屍肉食による肉の獲得方法や捕食対象の選好性がどのように変化したか、また、どのような条件で起こるかといった問いに基づく基礎的な分析を行い、共同研究者と連名の原著論文として成果公表した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

初年度の海外調査を予定通り遂行し、マハレ山塊国立公園(タンザニア)における35日間の滞在中、調査対象である成熟雄のチンパンジー10頭のうち9頭について205.3hrの個体追跡をおこなうことに成功し、アドリブ観察を含め245.0hrの行動記録をとることができた。

今後の研究の推進方策

当初計画では、4年間の研究期間における雄間関係の変容を縦断的に研究する予定であった。特に、代表者の初年度調査が終わってまもなく、アルファ雄がその地位から転落し、雄間関係が複雑な状況に入ったとの共同研究者からの私信もあり、2年目以降の行動観察がきわめて貴重となることが期待された。然るに、2020年度は新型コロナウイルス感染症のパンデミックという事態になり、代表者自身による野外調査は断念せざるをえなくなった。しかしながら、現地調査助手への遠隔指示や3年目以降の代表者による野外調査遂行により、必要あらば最終年度以降に1年間の期間を延長して、できるだけ継続的な変化が解析できるデータを入手したいと考えている。
初年度調査においては、主な狩猟対象であるはずのアカコロブスを狙った狩猟が少なく、成功事例は一度も観察しなかった。一方、滅多に狩猟対象とならないキイロヒヒ2頭を成熟雄チンパンジー3頭が殺して食べる稀少事例を1回観察した。調査を実施した8~9月は例年、アカコロブス狩猟のピークであるため異例であり、代表者はアルファ雄不在が影響したものと推測している。チンパンジーの成熟雄の優劣関係がアカコロブス狩猟の頻度に影響する可能性は、代表者がかねてから唱えている仮説である。今後も本研究課題と関連させながら長期資料の分析により、この仮説の検証も目指していきたい。また、ヒヒなどアカコロブス以外の獲物を殺したときの肉分配にアカコロブスの肉を分配するときと、何か違いがあるのか、個体間の肉の移動やそれに伴うコミュニケーションに着目して分析を進めたい。

次年度使用額が生じた理由

研究資料のうち映像データ(過去に収集した膨大な8ミリ、デジタルビデオカメラによる録画データを含む)を取り込んで編集保存・映像音声解析するために必要な機能を備える最新式のApple MacBook Proを、2年目に購入したい。周辺機器等の購入にかかる費用を見越して、1年目の経費使用を少しでも節約しようとした結果、わずかながら次年度に回せる金額を生じさせることができた。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2020 2019

すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] Longitudinal changes in the targets of chimpanzee (Pan troglodytes) hunts at Mahale Mountains National Park: how and why did they begin to intensively hunt red colobus (Piliocolobus rufomitratus) in the 1980s?2020

    • 著者名/発表者名
      Hosaka Kazuhiko、Nakamura Michio、Takahata Yukio
    • 雑誌名

      Primates

      巻: 61 ページ: 391~401

    • DOI

      10.1007/s10329-020-00803-8

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Wild chimpanzees deprived a leopard of its kill: Implications for the origin of hominin confrontational scavenging2019

    • 著者名/発表者名
      Nakamura Michio、Hosaka Kazuhiko、Itoh Noriko、Matsumoto Takuya、Matsusaka Takahisa、Nakazawa Nobuko、Nishie Hitonaru、Sakamaki Tetsuya、Shimada Masaki、Takahata Yukio、Yamagami Masahiro、Zamma Koichiro
    • 雑誌名

      Journal of Human Evolution

      巻: 131 ページ: 129~138

    • DOI

      10.1016/j.jhevol.2019.03.011

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] 人類以前の子ども学2020

    • 著者名/発表者名
      保坂和彦
    • 学会等名
      鎌倉女子大学生涯学習センター公開シンポジウム「子ども期の起源を探る ―霊長類学の視点から―」

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公開日: 2021-01-27  

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