研究実績の概要 |
2020年度は25-54歳の36名の男性被験者について、①歩行速度(3,4,5,6km/h)、②傾斜角度(0,5,10,15%),③8分連続歩行(4km/h,10%)による疲労の影響,の3つの条件に付いて測定を行った。実験の安全性や被験者の負担軽減の観点からこれらの実験条件や測定指標は当初の計画よりも若干簡略化されている。実験は2020年10月-11月に本学体育館において実施した。実験実施時期は新型コロナ感染の流行中であったが、一度に集合する被験者は6名までに制限し、体温をチェックし体調不良者は測定しない等の感染対策に関する配慮を行い実施した。被験者1名については洞性頻脈のため条件③の測定を中止したが,他の35名についてはすべての条件で測定が完了した。これらの36名分の測定結果に加えて,少数の若年被験者を用いた実験も前年度から継続した。片足へのアンクルウエイト負荷,円周歩行など意図的な非対称歩行条件を課し,歩行対称性指標がこれらの条件に対応することを確認することができた。これらの点でほぼ当初の計画通りの研究が実施できたといえる。 現時点で詳細な分析は完了していないが,歩行対称性に関しては歩行速度の影響が大きいことが示唆された。同一被験者であっても歩行速度が低いほど左右対称性が低下する傾向がみられた。これまでに若年者と比較して高齢者では歩行中の体幹動揺における左右対称性が低下することが示されている。しかしながらこれらは床面上の自由歩行の結果であり,高齢者群と若年者群では歩行速度が異なる。したがって,この結果は高齢者における左右対称性低下が単に歩行速度の低下のみで説明されるのかどうか,という疑問につながる。この点において今後の研究につながる知見が得られたと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度も基本的には同様の実験を実施し,計70-80名程度のデータを収集する予定である。しかしながら2020年度の結果より,傾斜角度や疲労の影響よりも単純に歩行速度の影響が大きいことが示唆されたことから,21年度の実験においては他の条件を簡略化して,歩行速度を4段階(3,4,5,6km/h)よりも広い範囲とし,歩行速度と対称性指標との関係をより精密に検証することを検討したい。
|