本研究では、利き手と非利き手の運動特性の特徴を「①道具の有無」、「②道具使用の慣れ」、「③課題の難易度」の3つの観点から明らかにし、利き手の形成機序についての解明を目指した。健常な右利き・左利き健常者を対象に、箸(使い慣れた道具)、止血用ハサミ(使い慣れていない道具)あるいは指(道具なし)によって、3軸フォースセンサーを配備した物体を把握し、テーブル側面のスタートポジションから、被験者の正面のターゲットポジション(大きいターゲットと小さいターゲットで課題の難易度を変えた)まで移動させる課題を行い、物体に加わる3軸方向の力を測定した。3次元モーションシステム計測を用いて、ターゲット、物体、親指の各関節、人差し指の指先、手の甲の位置情報を調べた。また、尺側手根屈筋および短橈側手根伸筋の筋活動も測定した。その結果、右利き者・左利き者の両方において、利き手では止血用ハサミの条件で指と箸に比べて、物体を移動するのに要する時間が長くなることが明らかとなった。一方、非利き手では、箸の条件で指と止血用ハサミに比べて時間がかかることがわかった。短橈側手根伸筋の筋活動(RMS:平方二乗根)は、右利き者・左利き者の両方において、非利き手で箸を用いたときに利き手の場合よりも値が大きくなることが明らかとなった。さらに、ターゲットが小さく正確性を要する場合には、ターゲットが大きい場合に比べて大きな筋活動が見られた。尺側手根屈筋の筋活動は、右利き者では、利き手で箸を用いたときに非利き手の場合よりも大きな活動が認められた。一方、左利き者では、利き手で箸を用いたときに、止血用ハサミの場合よりも大きな筋活動が見られた。今回得られた結果を適切に解釈するためには、発揮力、筋電図、3次元動作解析のデータを同期させ、今後、より詳細な分析を行う必要がある。
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