口輪筋とその周囲の顔面表情筋の複合的作用機序については様々な理論的構造に相違があり、解剖学的構造として未だ統一見解が得られていない。本研究では、超音波診断装置を活用してそれらの動きや相互作用を捉えることにより真の解剖構造を得ることを試みた。第一に、健常被検者において口輪筋の交叉繊維とその走行、作用の仕組みについて測定し、その走行と作用について検証を行った。また、顔面表情筋について、鼻中隔下制筋、上唇挙筋等の走行とその作用について検証を行った。第二に、口唇裂治療後患者において、口輪筋の交叉構造や、梨状孔縁付近の解剖学的にあるいは手術操作的に影響を受けると思われる鼻中隔下制筋等を中心とした筋走行とその作用について、左右差および健常者との差異を調べた。一部で理論に合致した画像を得ることができたが、COVID-19の蔓延の影響を受け口唇周囲に接触を伴う検査を行うことを中断せざるを得ず、統計的データを得る症例数まで収集するには至らなかった。外観の表情表出による左右差について、非接触的データ収集の可能な口唇裂患児の写真を活用し、口輪筋および鼻中隔下制筋による左右差について解析を行い、理論に合致した結果を得ることができた。鼻中隔下制筋は口輪筋の頭側端を制御しており、その走行が障害されている口唇裂(術後)患児においてはその制御がなされないことにより口角および鼻翼基部にずれを生じると考えられた。その成果はJournal of Plastic and Reconstructive Surgeryにて発表した。
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