研究課題
GABAは主要な神経伝達物質であり、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD; GAD65とGAD67の2型存在)によって合成される。GAD65とGAD67は、分子量、補酵素との親和性、細胞内局在などで違いがあり、異なる遺伝子にコードされている。GADやGABAは統合失調症、てんかん、不安症、抗GAD抗体関連脳症など様々な精神神経疾患に関与することが報告されている。そこで、本研究では主にノックアウトラットを作製・解析することにより、脳機能におけるGAD65分子とGAD67分子の役割を明らかにすることを目指した。GAD65ノックアウトラット脳においてGAD65タンパク質が欠損しているかどうかを確認するために、3種類の抗GAD65抗体を用いてウエスタンブロットを行った。いずれの抗体においても野生型ラット脳では65kDに相当するバンドが検出されたが、GAD65ノックアウトラット脳では検出されなかった。GAD65ノックアウトラットは、3~4週齢のてんかん痙攣発作を特徴とする。てんかんのモデル動物では海馬の形態学的変化を伴うことがある。ニッスル染色で海馬全体の形態、抗ZnT3抗体染色による海馬苔状線維の異常発芽の有無について光学顕微鏡レベルで検討したが、GAD65ノックアウトラットと野生型ラットでは違いが観察されなかった。一方、空間作業記憶におけるGAD67の役割を明らかにするためにY字型迷路試験を行なった。野生型ラットに比べGAD67ノックアウトラットで、自発性交替行動率が低下しており、GAD67ノックアウトラットの記憶障害が示唆された。プルキンエ細胞からの抑制性神経伝達を遮断した際の小脳深部核でのGADの発現レベルの解析に貢献した。
2: おおむね順調に進展している
GAD65ノックアウトラットおよびGAD67ノックアウトラットを繁殖させ、解析が進捗した。GAD65ノックアウトラット海馬の形態学的解析では野生型ラットと差がなかった。GAD67ノックアウトラットの行動解析では、空間作業記憶の障害が見つかった。GAD65ノックアウトラットおよびGAD67ノックアウトラットをナショナルバイオリソースプロジェクト「ラット」(NBRP)に寄託した。また、3種類の抗GAD65抗体はマウスGAD65タンパク質の部分アミノ酸配列に基づいた抗原に対して作成されたが、いずれもラット脳にも利用可能であることを明らかにした。これらは神経科学研究のリソースとして貢献できる。さらに当初の計画に加えて、GAD65/GAD67ダブルノックアウトラットを用いた研究を拡大した。GAD67ノックアウトマウスでは口蓋裂や臍帯ヘルニアが高率に観察されるが、GAD67ノックアウトラットでは観察されない。ラットの口蓋形成や腹壁形成におけるGABAの役割を明らかにするために、GAD65/GAD67ダブルノックアウトラットを作製して検討した。GAD65/GAD67ダブルノックアウトラットでは脳のGABA含量がほぼゼロになる特徴がある。GAD65/GAD67ダブルノックアウトラットでは、全例に口蓋裂が観察されたが、臍帯ヘルニアは1匹も観察されなかった。従って、ラットにおいても口蓋形成にGABAが関与するが、腹壁形成にはGABAだけでは不十分であることが示唆された。このように発生障害とGABAとの関係についてラットとマウスでは類似の場合も異なる場合もあることに言及できた。
昨年度までの研究成果と本年度の研究成果を含め、GAD65ノックアウトラットは痙攣発作を示すてんかんモデル動物として、GAD67ノックアウトラットは認知機能障害を示す統合失調症モデル動物として利用できるめどが立った。そこで、それぞれ論文投稿を進める。GAD65ノックアウトラットについてバッテリーテストに準じた行動解析を行ない、得られた結果に関してGAD67ノックアウトラット、GAD65ノックアウトマウスと比較する。行動解析に必要なGAD65ノックアウトラットと野生型ラットは既に準備した。また、GAD65ノックアウトラットとGAD67ノックアウトラットについてイメージング質量顕微鏡を用いてラット脳組織切片上の神経伝達物質量を比較定量する。これらのノックアウトラットの解析を継続することにより、脳機能におけるGAD65分子とGAD67分子の役割を明らかにする。
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