2021年度には本課題の集大成となる論文”CaMKII activation persistently segregates postsynaptic proteins via liquid phase separation”を香港科学技術大学およびボルドー大学との共同研究としてNature Neuroscienceに発表したほか、総説を国際誌に二報発表した。ここまでで我々はCaMKIIのハブ機能に注目し、興奮性刺激によるCaMKIIの活性化が液-液相分離を介してタンパク質凝縮体を形成し、そのことがシナプス蛋白質のナノスケール局在を調節しシナプス伝達効率を増強させていることを示唆した。このことは記憶の分子メカニズムの本質であると考えられ、本来の研究計画以上の成果であった。一方でシナプスの可塑性には抑圧があり、忘却や睡眠に関与していることが知られている。本課題の文脈で考えれば、シナプスの抑圧は液-液相分離によりCaMKIIのハブ機能を利用して形成されたタンパク質凝縮体の離散によって説明できる。そこで後継プロジェクトとしてCaMKIIにより構成された凝縮体の離散がシナプスの抑圧を誘導するという仮説を検証した。CaMKIIのハブ機能は活性化立体構造で暴露するt-siteと呼ばれる領域で他のタンパク質と結合することで成立する。CaMKIIに結合する既知の内在性タンパク質の一つにCamk2n1が知られている。CaMKII凝縮体形成後にCamk2n1を投与したところ、凝縮体が離散した。これらのことから我々は本課題の後継プロジェクトにCamk2n1によるCaMKII凝縮体の離散を位置づけ、そのメカニズムや生理的意義を明らかにしていく。
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