研究課題/領域番号 |
19K06887
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
中川 直 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 助教 (20611065)
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研究分担者 |
水野 秀信 熊本大学, 国際先端医学研究機構, 特任准教授 (00567159)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | gap junction / 大脳皮質 / 同期活動 / 回路形成 |
研究実績の概要 |
応募者らは近年、神経回路の形成が急速に進む生後1週の発達期マウスにおいて、大脳皮質第5層の興奮性細胞が同種の細胞と選択的にgap junction(GJ)で結合する精密なネットワークを持つことを明らかにした(Science, 358, 610, 2017)。GJネットワークは生後2週目に消失したことから、成熟した脳の情報処理には直接関与せず、大脳皮質の神経回路形成に特化した機能を持つことが期待される。本研究課題では、1. GJネットワークの大脳皮質全体における全貌解明と、2. 第5層における細胞種ごとのin vivo同期活動の解析、3. GJ機能操作法を用いたGJネットワークの機能探索を同時に進めることで、細胞種特異的な神経回路形成におけるGJネットワークの役割を迅速に解き明かしていく。 1.に関しては、第6層のGJネットワークについて、および生後2週の急速なシナプス形成について、論文投稿準備中である。 2.に関しては、第5層の2種類の神経細胞で特異的にCreを発現する遺伝子改変マウスを導入すること、細胞種特異的にカルシウムセンサーを発現させることによる神経活動の細胞種ごとの解析を可能にした。2021年度に本格的に実験を開始する。 3.に関しては、GJを構成するタンパク質であるコネキシン遺伝子を強制的に発現させたところ、強力な同期活動を引き起こすことに成功するとともに、予想しなかったこととして、発現細胞間で強力な同期発火が起きるようになると同時に、電流注入による発火が起きにくくなった。このことは、神経活動または同期活動の変化によって、細胞体から活動電位発生部位である軸索起始部までの距離が変化した可能性を示唆する。今後、この仮説を確かめる予定である。一方、コネキシンの機能の阻害方法は検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「1. GJネットワークの大脳皮質全体における全貌解明」に関しては、第6層のGJネットワークの詳細がわかったが、第5層と第6層の間のGJ結合を調べてから論文投稿をしたいと考え、投稿には至っておらず、やや遅れている。 「2. 第5層における細胞種ごとのin vivo同期活動の解析」に関しては、前所属である理化学研究所在籍時に使用していた遺伝子改変マウスを導入することができ、細胞種ごとの神経活動の光計測が可能になった。イメージング機器は所属研究室および共同研究先にあることから、2021年度に円滑に進められると期待でき、進行状況は良好だと考えられる。 「3. GJ機能操作法を用いたGJネットワークの機能探索」に関しては、GJネットワークを作るコネキシンサブタイプの特定およびGJ阻害法の確立は、着手しているものの未だ成功しておらず、やや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
「1. GJネットワークの大脳皮質全体における全貌解明」に関しては、第6層のGJネットワークに関する論文の投稿を目指す。第2/3層のGJネットワークの解析は、2.の研究を可能になったことから、そちらを優先して保留とする。 「2. 第5層における細胞種ごとのin vivo同期活動の解析」に関しては、前述の方法で神経活動を光計測する。カルシウムセンサーの発現にはCre依存的にカルシウムセンサーを発言するウィルスの脳室内投与と、子宮内エレクトロポレーションを使い分け、イメージングには、所属研究室のマクロイメージング機器、共同研究先の二光子顕微鏡を必要に応じ使い分けることで、高度で先進的な研究を行う。 「3. GJ機能操作法を用いたGJネットワークの機能探索」に関しては、引き続き、コネキシン遺伝子のCRISPR-Cas9法によるノックアウトでGJネットワークの機能を阻害する手法の確立を目指す。胎生期に発現するコネキシン43のノックアウトでは、細胞移動が障害されることが期待されたが、実際に行うと細胞移動は正常に進行した。ゲノム編集からmRNA減少、タンパク質減少、そして機能阻害に至るまでに時間がかかることから、細胞移動は阻害しなかった可能性がある。電気生理学的にGJ結合を調べると、電気的結合は観察されたことから、Cx43は新生児期の第5層細胞の電気的結合に寄与していない可能性が示唆された。ただし、正しくゲノム編集がなされたかどうかは確かめられていないため、RNAiによる発現阻害も試す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナが原因で出張ができなかったため、共同研究先での実験ができず、学会への参加もできなかったことが、大きな理由である。同じ原因で実験手伝いが得られなかったことも理由の1つである。2021年度は、新型コロナに左右される可能性があるが、第5層の2種類の神経細胞で特異的にCreを発現する遺伝子改変マウスを導入したことで、細胞種ごとに神経活動の解析を可能にし、2021年度に本格的に実験を開始する。これまでの実験に加え、この新たな実験に予算を費やすことを想定している。
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