研究課題
ナトリウム利尿ペプチド(NP)ファミリーのいくつかは、脳でも発現することが知られているが、記憶・学習行動への関与は明らかになっていない。われわれは、幼少期の記憶・学習行動の1つであるニワトリのインプリンティング(刷込み)行動に注目し、NPファミリーペプチドのうちのCタイプNPの1つ(CNP3)とNP類似ペプチドであるオステオクリン(OSTN)の機能を調べた。CNP3の発現がニワトリ幼雛の終脳と扁桃体で見られることはすでに発表したが、新たに、OSTNも終脳と扁桃体で発現するが、その分布はCNP3とは異なることがわかった。NPの受容体には、NPR1、NPR2、NPR3の3種類がある。そこで、各受容体の安定発現HEK293細胞株を作成してOSTNと各受容体との関係を調べたところ、OSTNはNPR3のみを活性化して細胞内cAMP濃度を減少させた。これは、CNP3のNPR1とNPR2に作用し細胞内cGMP濃度を上昇させる働きとは異なっていた。インプリンティング行動に伴いOSTNの終脳での発現が増加すること、終脳でのOSTNは、NPR3を介してインプリンティング刺激の記憶の維持に働くことが明らかになった。またOSTNには、終脳ニューロンの過剰な突起形成を抑制する働きがあることがわかった。CNP3とOSTNが発現する扁桃体は社会性行動の発現に関与することが知られている。インプリンティングの社会性行動としての側面を調べたところ、インプリンティングの学習を終えた個体と一緒に、初めて学習を行った個体では、インプリンティング刺激に対するインプリンティング行動が成立するとともに、新規刺激に対する逃避行動がより強くなっていた。インプリンティング行動は、CNP3が発現する扁桃体領域の細胞を活性化することから、インプリンティングの社会性行動としての側面の発現にCNP3が係ることが示唆された。
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