研究課題/領域番号 |
19K06889
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
山口 宜秀 東京薬科大学, 薬学部, 准教授 (50311832)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 翻訳リードスルー / ミエリン / 細胞接着 / リン酸化 / PKC / シャルコー・マリー・トゥース病 / 脳・神経 |
研究実績の概要 |
本研究では、L-MPZを中心にその生理機能や産生メカニズムを明らかにし、高等動物神経系における生理的な翻訳リードスルー機構の存在意義を解明することを目的としている。そのために研究期間内に1)L-MPZとP0の比率を変化させたマウスの解析、2)L-MPZ特異的なPKCリン酸化サイトの機能解析、3)L-MPZ産生制御メカニズムの解析を行う予定である。本年度は末梢ミエリン主要タンパク質であるP0をゲノム編集により翻訳リードスルー産物であるL-MPZに置き換えたマウス (L-MPZマウス) を用いて 1)を中心に解析を行った。その結果、成体L-MPZマウスではL-MPZタンパク質の過剰な増加により末梢有髄神経に異常を引き起こし、運動機能障害を示すことから、このマウスが神経難病であるシャルコー・マリー・トゥース病の新たなモデル動物となることを明らかにした(国内外の学会で発表、最終的に論文をCommun Biol. 2020で発表)。ミエリンの形成・維持過程における解析ではミエリンやランビエ絞輪周辺部の異常はミエリン形成期から認められ、6ヶ月あるいは12ヶ月齢まで維持され増悪することが示唆された。またホモ接合体よりもヘテロ接合体で病態が軽いことから、これらの異常の度合はL-MPZの異常な増加の度合に依存することが明らかとなった(ここまでは国内外の学会で発表)。P0マウスに関しては、見かけ上の運動機能障害は認められなかったが、神経伝導速度の低下傾向やランビエ絞輪周辺部の異常などが認められた。これらに関してはさらに解析を進め、次年度に開催される学会で発表する予定であり、論文の準備も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的であるL-MPZの生理機能を明らかにするためには、翻訳リードスルー産物であるL-MPZの生体内における量的な変化と生体機能への影響の関係を明らかにすることが重要である。異常に増加した状態に関しては、L-MPZマウスの解析から様々な情報が得られた。これらと比較するための通常よりもL-MPZ産生が減少した状態のP0マウスの解析も進んでいる。これらゲノム編集マウスの作製・解析の経験は、計画2)で予定しているL-MPZの予想機能ドメインであるPKCリン酸化部位の変異マウスの作製・解析においても非常に有用である。次年度は、計画2)を中心に研究を進めることが可能であるため、進捗状況としてはおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、計画2)を中心にまずは強制発現細胞接着系を用いて細胞接着性に影響を及ぼすL-MPZ特異的PKCリン酸化サイト内の部位を特定し、細胞接着性とL-MPZ 特異的ドメインの相関を明らかにする。さらに生体内での影響を調べるために、その部位を変異させたマウスを外部委託でのゲノム編集により作製し、系統確立後に運動機能や形態学的変化を解析する予定である。培養細胞における強制発現系や細胞接着実験系は既に確立しており、ゲノム編集マウスによる変異マウスの作製と系統化においても十分に経験があるため準備は整っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は主に計画1)のL-MPZマウスの解析、その結果を公表するための論文審査における追加実験、P0マウスの系統化と解析に多くの時間を割いたため、本年度内に予定していた計画2)の初期段階であるPKCリン酸化サイトのゲノム編集変異マウス作製の外部委託までには至らなかった。そのため予算が多く掛かる培養細胞系やゲノム編集マウス作製の外部委託を次年度に行う計画で調整した。
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