本研究では、L-MPZを中心にその生理機能や産生メカニズムを明らかにし、高等動物神経系における生理的な翻訳リードスルー機構の存在意義を解明することを目的としている。そのために1)L-MPZとP0の比率を変化させたマウスの解析、2)L-MPZ特異的なPKCリン酸化サイトの機能解析、3)L-MPZ産生制御メカニズムの解析を行うこととした。L-MPZは、末梢ミエリン主要タンパク質P0 のmRNA翻訳の際に、最初の終止コドンがリードスルーされ次の終止コドンまで進み、C末部に追加ドメインが付加した構造を持つアイソフォームである。1)ではこれまでにL-MPZ産生の異常に増加したL-MPZマウス、L-MPZを産生できないP0マウス (L-MPZ欠損マウス)、野生型マウスの比較解析により、適正な量のL-MPZ産生が正常なミエリン形成・維持に重要であることが明らかとしてきた。本年度は2)を中心に特に培養細胞強制発現系を用い、L-MPZ特異的なPKCリン酸化サイトのリン酸化の有無により細胞接着活性が調節されることを明らかにし日本神経化学会にて発表を行った。またゲノム編集により委託作製したPKCリン酸化部位変異マウスのヘテロ接合体の系統化に成功し、LMPZ特異的ドメインのPKCリン酸化を検出するために作製したペプチド抗体の有用性についても確認できた。さらに学内の共同研究では、新たなリードスルー薬により生体内の生理的なリードスルーアイソフォームであるL-MPZ産生が増加するが重篤な副作用は生じないことを明らかにした (Neuropharmacology 2022年、大谷ら)。
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