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2019 年度 実施状況報告書

ペリニューロナルネットによる機能的なシナプス伝達モジュレーションの解明

研究課題

研究課題/領域番号 19K06890
研究機関和歌山県立医科大学

研究代表者

廣野 守俊  和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (30318836)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワードコンドロイチン硫酸プロテオグリカン / グリコサミノグリカン / 小脳核 / シナプス伝達 / 受容体型チロシンホスファターゼ
研究実績の概要

記憶痕跡の形成メカニズムの解明は、単に記憶学習を知るだけではなく、外部環境への適応様式の理解や、精神疾患や脳障害の原因究明にもつながる。ペリニューロナルネット(perineuronal net: PNN)は中枢神経系に存在する細胞外マトリックスであり、一生涯続くような記憶の維持にかかわる構造物として注目されている。PNNはシナプス結合を形態的に安定化し、シナプス伝達を長期にわたって一定に保つと考えられている。しかし我々の先行研究では、PNNが神経終末からの神経伝達物質放出を機能的にモジュレーションする可能性が示唆された(Hirono et al., 2018, J Neurosci)。本研究の目的は、PNNの構成成分がその機能的モジュレーションを如何に実行するのかを解明することである。そこでPNNを高密度に構築する小脳核ニューロンに着目し、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)の糖鎖であるグリコサミノグリカン(GAG)の抑制性シナプス伝達への作用を明らかにすることを試みた。
幼若期の脳ではPNNは低形成である。そこで幼若期マウスの小脳核ニューロンから抑制性シナプス後電流(IPSC)をホールセル電位固定法により記録し、硫酸化パターンの異なる二糖のコンドロイチン硫酸(CS)、6-硫酸化コンドロイチン(CS-6S)と4-硫酸化コンドロイチン(CS-4S)を各々灌流投与して、IPSCへの作用を調べた。いずれのCSも誘発性IPSCの振幅を低下させ、自発性IPSCの頻度を減少させる傾向が見られた。この結果はGAGをコンドロイチナーゼABC(ChABC)で分解してPNNを低下させた場合のIPSCの促進作用とは正反対の効果であった。またこの抑制作用は短時間のCS投与で観察されることから、プレあるいはポストシナプス内の情報伝達の修飾を介して惹起されるものと推測された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

GAGがシナプス伝達を機能的にモジュレーションすることによって、記憶・学習を如何に制御するかについてはほとんど分かっていない。我々の先行研究では、GAG除去が抑制性シナプス伝達を増強し、マウス瞬目反射条件づけの学習効率を上昇させることを明らかにした。本研究の目的は、GAGのCSあるいはヘパラン硫酸(HS)がシナプス伝達を如何に機能的にモジュレーションするかを明らかにすることである。そこでPNN構築前の幼若マウスから小脳切片を作製し、小脳核ニューロンへホールセル電位固定法を適用してIPSCを記録し、GAG灌流投与の効果を調べた。視覚野においてCSの硫酸化パターンが生後発達に伴い、CS-6SからCS-4Sに変化することが報告されている。そこで本研究では両方の二糖のCSを用いた。その結果、CS-6Sは誘発性IPSCの振幅を小さくしたものの、paired-pulse ratioを変化せず、さらに自発性IPSCの頻度を減少した。したがってCS-6SはポストシナプスのGABA応答に作用した可能性が考えられる。一方、CS-4Sはpaired-pulse ratioを上昇させながら、誘発性IPSCを減弱した。しかし微小IPSCの振幅を変化しないことから、プレシナプス末端からのGABA放出を抑制したものと考えられる。よってCSは抑制性シナプス伝達を減弱する方向にはたらき、CS除去の効果と正反対であることが確認された。さらに硫酸化パターンによってCSの作用部位と機序に差がある可能性が示唆された。
またPNNを低形成するマウスの小脳核ニューロンでは、微小IPSCの頻度が上昇する傾向が観察された。この結果が、プルキンエ細胞の軸索末端の増加によるのか、あるいは機能的なGABA放出の促進によるのか、今後明らかにする必要がある。

今後の研究の推進方策

小脳核の抑制性シナプスにおいてCSのターゲット分子を明らかにする。その第一候補である受容体型チロシンホスファターゼの関与を検証するため、下流のシグナル伝達の阻害剤を各種用いる。また幼若期の小脳切片だけでなく、分解酵素のChABCでGAGを除去した成獣の小脳切片も使用する。さらにHSの抑制性シナプス伝達への寄与も解明する。
一方、小脳核ニューロンにおける興奮性シナプス伝達がPNNによって如何に制御されているか全く分っていない。今後の研究では、小脳核ニューロンへの2つの興奮性シナプス入力である登上線維と苔状線維を電気刺激して興奮性シナプス後電流(EPSC)を記録し、小脳核からのGAG分解除去の効果を検証する。あるいは登上線維入力と苔状線維入力を正確に区別するため、チャネルロドプシン2をアデノ随伴ウイルスベクターを用いて下オリーブ核と橋核にそれぞれ発現させる。小脳核に光刺激を与えて誘発性EPSCを記録し、EPSCの振幅、paired-pulse ratio、キネティックスをPNN有無で比較検討する。
小脳核ニューロンへの興奮性線維末端の大きさや密度がPNN除去によって変化するのか検証するため、免疫組織化学染色法による形態観察を行う。登上線維末端はVGLUT2、苔状線維末端はVGLUT1と2を発現することから、各抗体で染色し、PNN有無で比較する。また小脳核ニューロンからPNN除去の影響を明らかにする。
我々の先行研究では、ChABCを小脳中位核に注入したマウスに遅延課題の瞬目反射条件づけを行なったところ、生食を注入したコントロースマウスと比べて学習効率が有意に上昇した。GAG除去による興奮性シナプス伝達への作用を明らかにすることは、小脳運動学習へのPNNの重要性をさらに確かなものにするものと考えられる。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナの影響により参加予定の学会が誌上発表となった。そのため旅費が支出されなかったため。次年度物品費として実験試薬代として使用する予定である。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2020 2019

すべて 学会発表 (1件) 図書 (1件)

  • [学会発表] 小脳プルキンエ細胞のGABA放出に対するカンナビノイドの作用解析2020

    • 著者名/発表者名
      廣野守俊、柳川右千夫
    • 学会等名
      第97回日本生理学会大会
  • [図書] Clinical Neuroscience Vol.37 (19年) 08月号 小脳学習説 Marr-Albus-Ito理論の50年 ニューロサイエンスの最新情報「小脳核におけるペリニューロナルネットの役割」2019

    • 著者名/発表者名
      廣野守俊、御園生裕明
    • 総ページ数
      2
    • 出版者
      中外医学社

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公開日: 2021-01-27  

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