研究課題/領域番号 |
19K06893
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
横井 紀彦 生理学研究所, 分子細胞生理研究領域, 助教 (50710969)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | てんかん / リン酸化 / ADAM22 / LGI1 / 神経回路 / 蛋白質分解 / 蛋白質複合体 / シナプス伝達 |
研究実績の概要 |
記憶等の脳高次機能は神経細胞間の興奮性と抑制性のシナプス伝達の適切なバランス制御によって担われている。このバランスが崩れ、脳が過剰興奮状態になることが、てんかん等の脳神経疾患の原因の一つと考えられている。神経分泌蛋白質LGI1とその受容体ADAM22の変異はある種の家族性てんかんを引き起こす。我々はこれまでに、LGI1のてんかん原因変異によるLGI1-ADAM22複合体の減少がてんかんの原因であることを見出し、LGI1-ADAM22複合体が脳の興奮制御に必須の役割を担うことを示した。本研究課題では、このLGI1-ADAM22複合体と脳機能の関連を明らかにするため、複合体の発現量と発現する神経細胞種に着目した。最近、我々はマウス脳内でのADAM22のリン酸化状態を調べて、あるセリン残基の大部分がリン酸化されていることを見出した。そこで、生理学研究所遺伝子改変動物作製室の平林真澄博士との共同研究でこのADAM22リン酸化欠損変異体のノックイン(KI)マウスを作製し、このKIマウス脳内でADAM22の蛋白質量が激減していることを見出した。2019年度はこのリン酸化によるADAM22の量の制御機構を調べるため、ADAM22の分解機構の解析とADAM22の結合蛋白質の解析を行った。その結果、ADAM22のリン酸化による安定化機構と、その過程に関わる蛋白質群を明らかにした。一方、ADAM22が興奮性神経細胞と抑制性神経細胞のどちらで機能するのかを明らかにするため、Cre-LoxPシステムを用いて、マウス脳におけるADAM22の細胞種特異的ノックアウトを行った。その結果、ADAM22がどちらの神経細胞種にも必須であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で見出した、リン酸化によるADAM22の安定化機構は、膜タンパク質の安定化機構として新たな知見を与えるものと考えられる。また、この研究成果により、LGI1-ADAM22複合体の発現量と脳機能との関連の解明に向けて、分子機構に基づいた研究を展開することが可能になった。一方、LGI1-ADAM22複合体が機能する神経細胞、神経回路の解明に向けて、本研究で作製したADAM22の細胞種特異的ノックアウトマウスは、今後も重要な研究ツールとなり得る。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は2019年度に見出したリン酸化ADAM22の安定化に関わる蛋白質間相互作用に着目し、この相互作用の熱力学量の測定や構造生物学的な解析を進める。さらに、ADAM22の蛋白質量の減少と脳機能との関連を明らかにするため、ADAM22のhypomorphマウスを作製、解析する。一方、細胞種特異的なADAM22のノックアウトマウスとコントロールマウスの間で、ADAM22やLGI1への結合蛋白質を比較することで、LGI1-ADAM22複合体への神経細胞種特異的な結合蛋白質を明らかにし、各細胞種特異的なLGI1-ADAM22複合体によるシナプス伝達制御機構の解明を目指す。
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