てんかんはおよそ1%の人が罹患する脳神経疾患で、その主な原因は脳の異常興奮にあると考えられている。いまだ30%近くのてんかんは難治性てんかんと言われており、新たなてんかん治療戦略の開発が求められている。我々はこれまでに、てんかん関連遺伝子産物である分泌蛋白質LGI1と膜蛋白質ADAM22が複合体を形成し、その複合体の減少が、てんかんの原因になることを報告してきた。このことから、LGI1-ADAM22複合体の量の制御機構が脳の興奮制御機構と密接に関わることが推測された。本研究では、ADAM22の翻訳後修飾に着目し、マウス脳内でADAM22のSer832が大部分リン酸化されていることを見出した。そして、そのリン酸化欠損変異体のノックインマウス脳内で、ADAM22とLGI1の蛋白質量が大きく減少していることを見出した。さらに、ADAM22がSer832リン酸化依存的に14-3-3蛋白質と結合することで、ADAM22のエンドサイトーシスが抑制されていることを明らかにした。つまり、このリン酸化によるADAM22-14-3-3結合によって、LGI1-ADAM22複合体が安定化されていることを明らかにした。次に、この複合体の減少とてんかん発症との関連を調べるため、様々な量のLGI1とADAM22を発現するマウスを7系統作製した。そして、ADAM22が30%以下になると痙攣感受性が上昇すること、10%のADAM22と50%のLGI1によって致死的痙攣が抑制される一方、LGI1が30%まで減少すると致死的痙攣が引き起こされることを見出した。以上のことから、脳内のLGI1-ADAM22複合体の増加が抗てんかん作用に繋がると考えられ、ADAM22-14-3-3複合体の安定化がその有用な戦略になると期待される。(Yokoi et al. Cell. Rep. 2021)
|