研究課題/領域番号 |
19K06897
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究 |
研究代表者 |
木村 有希子 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 助教 (70581122)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ゼブラフィッシュ / 遊泳運動 |
研究実績の概要 |
脊椎動物の移動運動では速度変化にともない、ウマのウオーク、トロット、ギャロップのように運動パターンが変化することがある。異なる速度の異なる運動パターンは、特定の速度で特定の脊髄ニューロンが選択的に活動して作られると考えられるが、その具体的なメカニズムは明らかでない。このメカニズムを明らかにするためには、動物が様々な速度で運動するときに、特定の運動パターン生成に関わる脊髄ニューロンが速度依存的に活動するために、どこからどのような入力を受けているかを明らかにする必要がある。しかし、上述の研究は複雑で巨大な神経系を持つ哺乳類を材料に用いると、実験操作が難しい。本研究では、哺乳類より単純な神経系を持ち、実験操作が容易なゼブラフィッシュ仔魚を材料にして、速度特異的な運動パターン生成に関わる脊髄ニューロンが様々な速度の運動で脊髄および後脳のニューロンから受ける入力を調べることで、速度依存的移動運動パターン変化を制御する後脳・脊髄神経回路を明らかにすることを目的とする。2021年度は前年度に続き、速度依存的発火パターンを示す脊髄ニューロンのうち、低速遊泳運動のパターンを作り出すために重要と考えられている交叉性の下向性軸索を持つ興奮性ニューロンが受ける入力を調べた。前年度までの研究で調べた入力パターンに基づいて、このニューロンに結合する可能性が高い脊髄介在ニューロンのうち、2020年度に解析を行わなかった特定の種類のニューロンを除去した場合の活動変化を解析した。また、低速遊泳と高速遊泳で異なる運動パターンを示す胸びれを制御する運動ニューロンについても、同様の解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、移動運動の速度変化に伴い運動パターンが変化する際の神経回路の動作機構を明らかにすることである。そのために、速度依存的に発火するニューロンがどこからどのような入力を受けているかを明らかにする。2021年度は速度依存的発火パターンを示す脊髄ニューロンのうち、低速遊泳運動のパターンを作り出すために重要と考えられている交叉性の下向性軸索を持つ興奮性ニューロンの解析を行った。このニューロンは、高速遊泳運動で活動せず、低速遊泳運動で活動する。この発火パターンを作り出す上流のニューロンを特定するために、これまでのボルテージクランプ法による解析の結果から、このニューロンに結合し、発火タイミングを調節している可能性のある複数の種類の抑制性脊髄ニューロンを遺伝学的に除去する解析を今年度と前年度に行った。しかし、予想に反して、解析ニューロンの抑制性入力パターンを大きく変化させるニューロンが見つかっていない。未知の種類の抑制性ニューロンがあるのか、複数種類の抑制性ニューロンの相補的な関与があるのかを今後検討する予定である。また、このニューロンの速度依存的発火パターンに関しては、興奮性入力の変化の寄与も大きいことが分かってきたので、今後は興奮性入力にも注目して解析を行う。 上記の研究と並行して、胸びれの運動ニューロンが受ける入力パターンについても同様の解析を行っている。高速遊泳では胸びれは体に引き付けられて、閉じたままになるが、この時、胸びれの外転筋運動ニューロンは発火しない。その理由の一つとして、外転筋運動ニューロンが高速遊泳時に受ける抑制性入力があると考えられるが、それを担う可能性が高い抑制性ニューロンの種類が分かってきたので、今後、詳しい解析を進める。同時に、興奮性入力も高速遊泳と低速遊泳で差があるので、解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
低速遊泳のパターンを作る介在ニューロン及び胸びれ運動ニューロンを対象に、これらのニューロンの速度依存的発火パターンを作り出すシナプス入力のソースとなるニューロンの同定を引き続き進める。未解析の種類のニューロンを遺伝学的に除去した遺伝子組み換え魚を作成する。解析対象ニューロンが受けるシナプス入力に変化が起こるかを調べることで、解析対象ニューロンにシナプス結合するニューロンを特定する。これまで、主に抑制性入力に注目して研究を行ってきたが、速度依存的な発火パターンの形成には興奮性入力の変化も合わせて考える必要があることが分かってきた。興奮性ニューロンについても重点的に上記の解析を進める。これらの解析により、速度依存的移動運動パターン変化を制御する後脳・脊髄神経回路を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
解析対象ニューロンに結合するニューロンが当初の予定通り判明していないことや、実験装置の不具合、新型コロナ感染拡大下での実験時間の減少により、研究計画が遅れている。また、他の共同研究と同じ材料や実験装置を使うことができたため、支出を抑えられた。以上の理由により、次年度使用が生じている。今後は、上述の今後の研究の推進方策に従って、新しい遺伝子組み換え魚の作製や興奮性ニューロンを調べるための実験系の構築に研究費を使用する。
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