研究課題/領域番号 |
19K06898
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
長友 克広 弘前大学, 医学研究科, 助教 (30542568)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ドーパミン受容体 |
研究実績の概要 |
申請者らは、これまでに報酬や運動制御に重要とされるドーパミンの受容体分布を成熟マウスの線条体、黒質網様部、皮質視覚野から急性単離したアストロサイトについて調べたところ、それぞれの領域で異なる受容体発現分布を示すことを報告した(Nagatomo et al, Font Neuroanat. 2017)。その後、線条体アストロサイトでは、細胞内シグナルが正反対のドーパミン受容体(DR)を単一細胞に発現している可能性が出てきたことから、本研究では、DRを発現する細胞が蛍光標識される遺伝子組換え(TG)マウス2系統を利用し、同一細胞に異なる受容体を発現する可能性およびその生理機能を検証することを目的としている。 2017年論文投稿以前より感じていた問題について、研究室配属の学生との実験を通して非常に重要であり今まで見逃していた事実を知るに至った。その問題とは、急性単離実験による細胞観察において、GFAP(+)アストロサイトを見つけられる頻度が黒質では多く、線条体では非常に少ない、という事実である。理由としては、アストロサイトはユビキタスに存在するであろうという固定観念、および、指標としていたGFAPは少なくともどのアストロサイトも発現している細胞マーカーであろうという固定観念、さらに、単離実験という実験方法により、木を見て森を見ずという状況に陥っていた。学生との実験結果により、本研究主題であるところのドーパミン受容体を発現しているGFAP(+)アストロサイトの線条体における分布(局在)を見事に示すことができた。ただし、GFAPだけをアストロサイトのマーカーとして用いることが良いのかどうか、他のアストロサイトマーカーを用いて本研究を検討しなければならないのではないかと問題が提起された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要にも記載したが線条体におけるGFAP(+)アストロサイトの局在を予期せず知るに至ったことは研究の方向性を決める上で重要な結果となった。アストロサイトはどこにでも存在し、なおかつ細胞マーカーであるGFAPは多かれ少なかれアストロサイトにあるだろうという先入観は、研究対象への対峙の仕方や心構えさえも一新するものであった。具体的には、GFAP(+)アストロサイトは線条体において、考えていたよりも『異常に』少なく、多くの研究者が使用しているGFAP抗体の特異性に対して疑いを持つレベルであった。そこで、当初使用していた抗体のベンダーとは異なる、神経科学研究では定評のある別のベンダーのGFAP抗体を用いて検証したところ、どうやら染色結果は確からしいという結果を得るに至った。別のアストロサイトマーカーでも同様の分布状況を示したため、さらに他のアストロサイトマーカーで調べる必要がある。 他に前年度の進捗状況に付して、D1受容体を発現している細胞が蛍光標識されるタイプのTGマウスと、D2受容体の場合を掛け合わせたD1/D2-double-TGマウスを作製して、蛍光強度の比較検討を開始しているが、現在までにD1単独♂、D2単独♂、D1/D2-double(+)♂、D1/D2-double(-)[wildtype] ♂をlittermateで得られず、実験段階に進めていない。旧型マイクロインジェクターや膜電位感受性色素による生理機能解析実験の条件検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
現状、GFAPをアストロサイトマーカーとして用いることはアストロサイトを顕微鏡下で探す上で非常に労力を要するため効率が悪い。そこで別のアストロサイトの細胞マーカーについての検討が必要とされるが、そのマーカーで識別したアストロサイト全般にドーパミン受容体が発現しているのか、それともGFAP(+)アストロサイトのみがドーパミン受容体を発現しているのか、この違いにより、将来的な研究の進め方を考慮しなければならない。少なくともマウス脳スライスにおいて、GFAP以外に試した細胞マーカーでも、GFAPと同様の結果(検出できるアストロサイトが異常に少ない)となっている。 機能実験については、主題とはずれるが、GFAP(+)アストロサイトが多く検出できる別の神経核(黒質など)を標的として、生理機能解析実験の実験系を組み立てることを優先すべきと考えている。別途、急性単離細胞における3次元的なアストロサイトのプロセス解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末にかけて、生理学実験消耗品(混合ガスやディスポ器具類)の突発的な出費を考えて少額であるが取り置きしておいたためである。次年度は、生理学実験消耗品や免疫染色関連試薬に充て、計画に支障のないように使用する。
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