研究実績の概要 |
アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)-PHP.Bはマウスの血液脳関門(BBB)を高効率に透過するカプシドバリアントである。PHP.Bを成体マウスの静脈内に投与した場合、PHP.Bは高効率にBBBを透過するため、静注のみで脳全域への遺伝子導入が可能となった(米国グループがAAV血清型9[AAV9]のバリアントとして開発; Deverman et al, 2016, Nat Biotech)。一方で、研究代表者らはこのPHP.Bを静注した個体血中において、速やかに中和抗体が産生され、二度目以降の静注による遺伝子導入が完全に阻害されることを報告した(Shinohara & Konno et al, 2018, Molecular Neurobiology)。 本研究ではこの中和抗体の産生を回避し、2度目以降の静脈投与による遺伝子導入が可能となる手法の開発を目指して研究を実施した。当初の予定では免疫抑制剤の投与により、中和抗体の産生を抑える手段を計画していたが、種々の免疫抑制剤を試したが、いずれの場合も2度目の静注による遺伝子導入は完全に阻害された。 そこで当初の計画を大幅に変更し、中和抗体が交差しない血清型のAAVベクターを用いる事により、2度目の静注による脳への遺伝子導入を実証する事とした。研究代表者は本研究期間中に、AAV2の血清型が元になっているBBB透過型のAAVベクターであるAAV2-BR1Nを偶然発見した。BR1Nを静注したマウスにはBR1Nに対しての中和抗体ができるが、この中和抗体はAAV9が元になっているPHP.(e)Bとは交差反応しないため、2度目の静注による遺伝子導入が成功すると考えた。この予想は当たり、BR1N投与後に、PHP.eBを投与した場合、PHP.eBによる脳への遺伝子導入が成功した。さらに順番を逆(PHP.eB→BR1N)にしても、脳への遺伝子導入が成功することも確認した。これらの研究内容はすでに論文として発表済みである(Kawabata & Konno et al., 2022)。
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