研究実績の概要 |
我々が作製したクラスII ARF KOマウス(ARF4+/-/ARF5-/-)マウスは頸部と前脚に震えを示した。また、この震えは本態性振戦に有効な薬であるプロプロパノール(β遮断薬)やガバペンチン(抗てんかん薬)の投与により軽減することが明らかになった。一方、パーキンソン病に有効な薬物は効果がなかった。このことから我々が作製したマウスは、本態性振戦のモデルマウスとして有効である可能性が高いことが分かってきた。 このマウスを詳細に解析すべく小脳スライスのプルキンエ細胞で電気生理学的特性を測定した結果、プルキンエ細胞の活動性に異常な低下が見られた。そこでプルキンエ細胞で発現している活動電位の発生に関与する各種チャネルタンパク質の解析を行ったところ、プルキンエ細胞において軸索起始部にある電位依存性Na+チャネル(Nav1.6)が消失していることが明らかになった。面白いことに、細胞体・樹状突起・軸索への輸送は正常であった。 また、小脳プルキンエ細胞のみでクラスII ARFタンパク質をレスキュー発現したところ、Nav1.6が軸索起始部に再び観察され、マウスの震えはおさまった。このことから、小脳プルキンエ細胞の軸索起始部にあるNav1.6が消失することで本態性振戦様の震えが起こることが明らかになった。 以上より、ヒトの疾患である本態性振戦は小脳プルキンエ細胞軸索起始部へのNav1.6タンパク質の輸送異常により発症する可能性が強く示唆された(Sadakata et al., J Neurosci, 2019)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画は順調に進行しており、論文発表も行うことができた(下記)。
Deletion of class II ARFs in mice causes tremor by the Nav1.6 loss in cerebellar Purkinje cell axon initial segments. Nobutake Hosoi, Koji Shibasaki, Mayu Hosono, Ayumu Konno, Yo Shinoda, Hiroshi Kiyonari, Kenichi Inoue, Shin-ichi Muramatsu, Yasuki Ishizaki, Hirokazu Hirai, Teiichi Furuichi, Tetsushi Sadakata. Journal of Neuroscience. 39 (32), p6339-6353 (2019).
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今後の研究の推進方策 |
クラスII ARFタンパク質が無くなることで、なぜ軸索起始部にNav1.6が輸送されなくなるのかについては未だ不明である。ARFタンパク質は膜輸送に関与していると考えられているが、過去にはクラスII ARFタンパク質がエンドソームに会合していることが報告されている(Laura et al., Mol. Biol. Cell., 2005)。一方、Navチャネルは、いったん細胞体の形質膜に輸送された後、エンドソームを経て、軸索へ運ばれるということを示唆している論文もある(Sole et al., J. Neurosci., 2019)。我々の作製したKOマウスを電子顕微鏡にて観察したところ、小脳プルキンエ細胞の樹状突起上に多層化した異常な膜状構造物が見られた。この構造物はエンドソームマーカーであるEEA1陽性であったことから、エキソサイトーシス不全に陥ったエンドソームの融合体と考えられる。我々はクラスII ARFタンパク質がエンドソームの形質膜との融合に関与することで、Nav1.6が軸索起始部へ輸送されるのではないかと考え、クラスII ARF依存的なエンドソームの輸送・形質膜融合メカニズムについて今後解析していく予定である。
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