研究課題/領域番号 |
19K06902
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
井上 蘭 富山大学, 学術研究部医学系, 助教 (70401817)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 遠隔恐怖記憶 / 扁桃体 / グルココルチコイド受容体 |
研究実績の概要 |
非日常的な強いストレス体験後に発症する心的外傷後ストレス障害(PTSD)が現在、精神保健的ならびに社会的な問題となっている。PTSDでは、トラウマ体験時の音や匂いなどの感覚刺激と恐怖との連合記憶が一ヶ月以上経っても強いレベルで維持され、それがPTSDの主な症状である侵入記憶や過度な回避行動、不安を引き起こす手がかりとなることが知られている。しかしながら、PTSDの原因となる過剰な遠隔恐怖記憶を引き起こす脳内機構はほとんど不明である。 扁桃体外側核(LA)は大脳皮質や視床からの各種感覚情報を受け取り、恐怖記憶の制御に関わる神経回路において中心的な役割を果たす脳部位である。これまで我々はストレス制御に関わるグルココルチコイド受容体(GR)をLA選択的に欠損させたマウス(LAGRKO)を作製し、音依存的恐怖条件付け28日後の遠隔恐怖記憶がコントロールマウスに比べ有意に増強されることを見出した。遠隔恐怖記憶の想起には聴覚皮質(AC)と内側前頭前皮質(mPFC)が重要な役割を果たすことから、遠隔恐怖記憶テストの90分後に脳を採取し、mPFCおよびACにおけるc-fosの発現(神経細胞活性化マーカー)を免疫組織化学法にて解析した。その結果、LAGRKOマウスではACにおけるc-Fos陽性細胞数がコントロールマウスに比べ顕著に低下し、逆にmPFCのc-Fos陽性細胞数が有意に増加した。さらに、緑色蛍光タンパク質であるGFPを発現するアデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターの脳内注入によるトレーシングにより、ACとmPFCの間に互いの軸索投射があることが明らかになった。これらの結果から、LAGRKO で認められた過剰な遠隔恐怖記憶の形成にはmPFCの過剰な神経活動が関与し、ACにおける神経活動の低下が原因の一つである可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ACとmPFCの神経活動の異常が過剰な遠隔恐怖記憶を引き起こすメカニズムの一つである可能性を見出した。遠隔恐怖記憶の想起に関わる神経回路の変化を明らかにするため、ACとmPFCならびにLAの記憶痕跡細胞間で形成されるシナプスをdual-eGRASP手法にてマッピングする方法を確立した。よって、おおむね予定とおり研究は進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
音依存的恐怖条件付け28日後の遠隔記憶テスト後、LAGRKOならびにFloxed GRマウスの脳切片からLAを切り出し、抽出したmRNAを用いてRNA seq解析を実施する。ACの記憶痕跡細胞とmPFC 或いはLAの記憶痕跡細胞間で作られるシナプスをdual-eGRASP手法を用いて可視化し、過剰な遠隔恐怖記憶の形成に関わる神経回路の変化を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会参加並びに情報収集に必要な旅費を使用しなかったため、次年度使用額が生じた。RNA seq解析を外部委託して行う費用として使用する。
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