私たちは、内側膝状体の内側核に選択的に遺伝子を発現させる系を確立した。この系を利用して、これまでに内側核ニューロンの可視化と光イメージング法による聴覚領野同定を組み合わせ、内側核が結合する聴覚領野を同定することに成功した。また、内側核がどのような聴覚刺激に応答するのかの問題に取り組むために、ファイバーフォトメトリーシステムを立ち上げた。今年度においては、内側膝状体にGCaMP6sを発現させるウイルスベクターを注入し、内側核のCre活性を利用して内側核に選択的にGCaMP6sを発現させる系を確立させた。それを利用し、ファイバーフォトメトリー法を用いて内側膝状体の聴覚応答の記録に成功した。並行して、c-fos発現を指標に、内側核のニューロンが新規な純音と聴き慣れた純音の両方に同等に応答することを明らかにした。さらに、これまでに確立した行動学習システムを用いて、音刺激を弁別刺激とするオペラント学習における内側核の役割を検討した。化学遺伝学的な方法で内側核の活動を操作し、それが連合学習において重要な役割を果たしている可能性を示唆するデータを得た。最後に、私たちの分子発現で同定した内側核は、前額断においてY字に似た典型的な形を示すが、従来の論文報告と異なる(従来の報告はニッスル染色像より目視によるものが多く、一致した形状の報告はない)。果たしてY字領域が内側核に当たるかをさらに検討するために、多くの分子の発現パタンを解析し、Y字領域陽性の複数のマーカーとともに、Y字領域が陰性で、その周辺が陽性のマーカーも複数同定できた。これまでの聴覚野への投射や聴覚応答と合わせて、Y字領域は現在最も客観的に同定できる内側核であると言える。これらの成果は現在、論文発表を準備中である。尚、期間中に聴覚関連招待講演を1回行い、聴覚関連英文論文を1編発表した。
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