研究課題/領域番号 |
19K06909
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
片山 圭一 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (20391914)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 介在神経 / Rhoファミリー低分子量Gタンパク質 |
研究実績の概要 |
Rhoファミリー低分子量Gタンパク質(RhoA, Cdc42, Rac1)を、介在神経の発生母地である内側基底核原基の脳室帯の前駆細胞から欠損させると介在神経の移動が障害されるが、移動中の介在神経で欠損させても移動は障害されない。これは介在神経の前駆細胞が移動する能力を有した成熟介在神経へと分化するのに必須のイベントが内側基底核原基の脳室帯に存在し、そのイベントにはRhoファミリー低分子量Gタンパク質が必須であることを示している。本研究はその分子メカニズムを解明することを目的としている。本年度はまず、表現型が非常に重篤で、ほとんど介在神経が移動しなくなるRac1とCdc42のノックアウトマウスに的を絞って解析を行った。Rhoファミリー低分子量Gタンパク質の下流で介在神経の移動する能力の獲得に重要な役割を果たしている遺伝子を検索するため、内側基底核原基の脳室帯からRNAを抽出してRNA-Seq解析を行った。その結果、Rac1とCdc42のノックアウトマウスに共通して、成熟した介在神経に発現するSst, Maf, Mafb, Erbb4などの遺伝子の発現が増加しており、これらノックアウトマウスでは、移動ができるようにはならないものの、遺伝子発現をみる限りは前駆細胞から介在神経への分化が亢進していると考えられた。また、Rac1ノックアウトマウスではMid1が、Cdc42ノックアウトマウスではRgccの発現がそれぞれ特異的に減少していた。Mid1とRgccは脳室帯に特異的に局在している分子であり、それぞれRac1とCdc42の下流で介在神経が移動する能力を獲得する過程に関与している可能性が高いと思われることから、今後はこれら分子について解析を進めていきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までにRac1とCdc42のノックアウトマウスの内側基底核原基の脳室帯から抽出したRNAを用いてRNA-Seq解析を行い、どちらのノックアウトマウスでも成熟した介在神経に発現する遺伝子の発現が増加していることを明らかにした。この結果は、遺伝子発現の観点からは前駆細胞から成熟介在神経への分化が亢進していることを示しており、一見すると介在神経がほとんど移動することができないという表現型とは矛盾する結果であるが、介在神経の前駆細胞が移動する能力を有した成熟介在神経へと分化する機構を解明する上で重要な知見であると考えている。また、Rac1とCdc42のノックアウトマウスの内側基底核原基の脳室帯で特異的に発現が減少する遺伝子として、それぞれMid1とRgccを見出しており、現在ゲノム編集技術を用いてこれら遺伝子のノックアウトマウスを作製する作業に入っている。ノックアウトマウスが作製された後は、その表現型を解析して遺伝子の機能を検索することで介在神経の前駆細胞が移動する能力を有した成熟介在神経へと分化する機構を解明することができるものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析で、Rac1とCdc42の下流で前駆細胞が移動する能力を有した成熟介在神経に分化するのに関与している可能性がある遺伝子として、それぞれMid1とRgccを見つけることが出来た。今後は、先ずCrispr/Cas9システムを用いたゲノム編集によりMid1とRgccのノックアウトマウスを作製してその表現型を解析し、これら遺伝子が移動する能力を有した介在神経へ分化する過程に関与しているかどうかを明らかにする。 また、これまで行っていなかったRhoAのノックアウトマウスの解析を行う。Rac1とCdc42のノックアウトマウスで発現に変化がみられた遺伝子について定量的PCRを用いた発現解析を行い、Rac1, Cdc42およびRhoAのノックアウトマウスに共通してみられる現象とそれぞれのマウスに特異的にみられる現象を明らかにし、各々の遺伝子発現の変化がもつ意味について考察を行う。 さらに、移動中の介在神経について、その形態(成長円錐・突起の長さ・分岐の数等)に関する詳細な解析を行う。また、細胞骨格関連タンパク質(F-actin, Cortactin, Ac-Tubulin, Tyr-Tubulin, Tau1等)の細胞内局在についても解析を行い、脳室帯からRhoファミリー低分子量Gタンパク質を欠損した介在神経に、正常な介在神経と比べてどのような違いがあるのかを解析する。これらの解析により、脳室帯からRhoファミリー低分子量Gタンパク質を欠損することで、介在神経にどのような変化が生じているのかを明らかにし、前駆細胞が移動する能力を有した介在神経へ分化する過程を理解する手がかりにしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は研究資金を効率的に使用した結果である。 研究資金は研究計画の遂行および成果発表に使用させて頂く予定である。
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