研究実績の概要 |
視床下部に局在するオキシトシン産生ニューロンは、多様な脳領域に投射しており、機能的にも社会行動・摂食・ストレスといった多様な生理現象に関与している。現在、オキシトシンが社会行動に果たす役割が大きく注目を集めているが、オキシトシンのもたらす効果は生育暦や社会的文脈などの多彩な要因に修飾され、その実態が捉えづらい。本研究は、複雑な入出力を持つオキシトシン産生ニューロンの個別の投射経路を選択的に活動操作し、その機能分担/機能連関を明らかにすることを目的とした。申請者は、これまでの研究によって社会的敗北ストレスによるオキシトシン産生ニューロンの活性化を見出している。そこで、前頭前皮質のオキシトシン受容体発現細胞がストレス応答において果たす役割について重点的に解析を行った。 2021年度の研究成果としては、オキシトシンを直接検出する蛍光センサーの導入が挙げられる。オキシトシンを含む神経ペプチドを生体内で検出する方法としては、従来から使われてきたマイクロダイアリシスやボルタンメトリーが持つ欠点を補う手法として、GPCRベースの蛍光センサーが台頭しつつある(これらの手法の特徴や展望についてはInutsuka, 2021-Peptidesに発表)。研究代表者は大阪大学の稲生大輔博士の協力を受けてオキシトシンの結合によって蛍光強度が増強するオキシトシンの蛍光センサーを導入した。前頭前皮質でのオキシトシン分泌についての成果がまとまり次第、これまでに得られた諸成果と併せて論文を作成予定である。また、これまでの研究過程において開発してきた遺伝子発現制御手法の応用やウイルスベクターを用いた外部機関との複数の共同研究についても論文の採択・公表を目指していたが、2021年度内に特許が登録された(特許第7048963号)。論文は現在revise中であるが、年内の採択を見込んでいる。
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