この研究では、動物の繁殖行動の性別による差異に焦点を当てている。C. elegansには雌雄同体とオスの2つの性が存在する。雌雄同体は自家受精が可能なために比較的少ない運動を行い、特定の場所に留まる傾向がある。一方、オスは交配相手を探すためにより広範囲にわたって活動する。精子形成に異常がある変異体は、野生型の雌雄同体よりも活動的で、オスのような行動を取ることが観察された。また、これらの雌雄同体がオスと交配すると、活動量が低下することが確認されている。これらの結果は、精子が存在しないときは交配相手を探すが、交配後はその必要がなくなるためと解釈される。 本研究で用いている精子異常変異体は温度感受性で、25℃で完全な精子形成異常が見られることが知られている。しかし、25℃では野生型においても受精卵の形成と行動に異常が見られるため、野生型では異常の見られない22℃で実験を行っている。本研究の精子異常変異体は22℃でも受精卵形成に異常が見られるか検証し、22℃でも受精卵形成が大幅に減少していることを確認した。 また、このような行動変化が実際に生殖戦略によるものであるのなら、性的に成熟する前の生殖能力のない幼虫期の個体では、行動の性差が観察されないはずである。交配相手を探す必要がないので、オスでも雌雄同体でも、成虫の雌雄同体の様に運動量が小さいことが予想される。実際に、L4幼虫のオスと雌雄同体について運動量の測定を行ったところ、いずれも運動量が小さく、運動量の性差は見られなかった。この結果は、オスと雌雄同体の間に見られる運動量の違いが繁殖に関連していることをさらに示唆している。
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