研究課題/領域番号 |
19K06915
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
立花 政夫 立命館大学, 総合科学技術研究機構, 教授 (60132734)
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研究分担者 |
小池 千恵子 立命館大学, 薬学部, 教授 (80342723)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 網膜 / 網膜神経節細胞 / 受容野 / 眼球運動 |
研究実績の概要 |
脊椎動物網膜の出力を担う網膜神経節細胞は、狭領域の「静的で独立な」受容野特性を示すことから、広域にわたる複雑な情報処理は皮質視覚野で行われると考えられてきた。しかし、眼球運動によって揺動する網膜像の動きを模した広域にわたる動画像刺激を剥離網膜標本に与えると、網膜神経節細胞群は「動的で協同的」な広域情報処理を行うことが見いだされた。本研究の目的は、各網膜神経節細胞サブタイプの符号化様式と機能を解析することによって網膜における「動的で協同的」な情報処理原理を明らかにし、新たな視覚モデルを提案することである。 マルチ電極法およびホールセルクランプ法をキンギョ剥離網膜標本に適用し、固視微動様に運動する広域のランダムドット背景を提示すると、暗黒背景提示時に比べて、fast-transient型網膜神経節細胞の受容野は体軸方向に伸張した。この伸張領域には振幅が大きく時間経過の速い興奮性シナプス入力が新たに出現しており、薬理学的阻害実験から双極細胞間の電気的結合とアマクリン細胞からの抑制性シナプス入力の変化に起因することが明らかとなった。また、マウスの剥離網膜標本を用いて、網膜神経節細胞の時空間受容野を逆相関法で推定するのに最適な光刺激条件を探索した。頭部を固定した非麻酔下のマウスに左右に動く白黒市松模様を提示し、赤外線カメラで眼球運動を記録して生起した眼球運動の特性を解析した。麻酔したマウスの上丘にアデノ随伴ウイルスベクターや逆行性トレーサー等を微量注入し、網膜神経節細胞を蛍光標識した。標識された網膜神経節細胞の形態を共焦点顕微鏡で観察し、内網状層における樹状突起の空間分布に基づいて網膜神経節細胞をサブタイプに分類するプログラムを作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
共同実験動物施設において蟯虫の駆除が行われたため、約4ヶ月間にわたり新規にマウスを搬入することができず、実験の遂行がやや遅れたが、夏以降は改善された。 暗視野装置の片眼が故障したため赤外線照明下での剥離網膜標本作製に手間取り、安定した光応答がなかなか記録できない状況が発生した。イメージインテンシファイアアッセンブリの納期に4ヶ月を要したが、暗視野装置の内部部品の交換が終了し、現在では標本作製もうまくできるようになった。 逆行性に標識された網膜神経節細胞の形態からサブタイプを同定するプログラムの作成にやや時間がかかったが、漸く稼働できる状態になった。 現在、学生の実験技術も向上したため、実験の遅れを取り戻しつつある。 免疫組織科学的解析は、染色に必要な抗原精製に手間取ったためにやや遅れていたが、抗原精製の目処が立ったので、抗体作製に進む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
マウスの眼球運動を解析するために、これまで回転ドラムを使用して画像を提示してきたが、今後はコンピュータモニターを利用して、より各種パラメーターが制御された光刺激を提示する。眼球運動の記録結果に基づき、マウス眼球から剥離した網膜標本に提示する画像を精緻化・最適化する。 剥離網膜標本にマルチ電極法を適用し、各種眼球運動を模した光刺激によって受容野特性が可塑的に変化する網膜神経節細胞のサブタイプを特定する。また、網膜神経節細胞にホールセルクランプ法を適用し、膜特性およびシナプス入力を明らかにする。記録した細胞の形態的特徴を解析し、サブタイプに分類する。さらに、2個の網膜神経節細胞からのペアレコーディングを行ってシナプス伝達特性を解析すると共に、各種シナプス伝達阻害剤を投与して網膜神経節細胞へのシナプス入力特性を明らかにする。 上丘や外側膝状体に逆行性トレーサーを微量注入して少数の網膜神経節細胞を蛍光標識する。蛍光標識された細胞の形態的特徴から、これまでに作成したプログラムによってサブタイプを同定するとともに、細胞の光応答を記録し、視覚中枢の特定領域にどのような情報が送られているかを推定する。 網膜神経節細胞へのシナプス入力を明らかにするために、網膜スライス標本にホールセルクランプ法を適用して双極細胞・アマクリン細胞・神経節細胞間のシナプス伝達を解析する。これには、アマクリン細胞サブタイプ特異的にEGFPを発現させた遺伝子改変マウスの網膜を用いる。また、免疫組織化学染色を行って電気生理学的解析結果と対応させることによって、網膜回路網の解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
神経回路網の特定を目的として遺伝子改変マウスの導入を試みたが、精子をMMRRCから取り寄せ、外部委託により個体化するのに手間取った。令和2年5月に遺伝子改変マウスを搬入することになっている。また、免疫組織化学的染色に必要な抗原精製の目処が漸く立ったので、抗体作製に進む予定である。これらの実験計画を遂行するのに、次年度使用額と翌年分として請求した助成金を合わせて使用する。
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