研究課題/領域番号 |
19K06918
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
武井 陽介 筑波大学, 医学医療系, 教授 (20272487)
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研究分担者 |
佐々木 哲也 筑波大学, 医学医療系, 助教 (10634066)
岩田 卓 筑波大学, 医学医療系, 助教 (80855883)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Th17細胞 / IL-17A / 自閉スペクトラム症 / ミクログリア / RORγt / KIF17 |
研究実績の概要 |
Th17細胞はインターロイキン(IL)-17Aを産生するT細胞のサブセットである。最近の研究では、妊娠母体中の血清中のIL-17Aの増加が胎児脳の脳発達障害や出生後の認知機能障害を引き起こし、自閉スペクトラム症などの精神・神経系疾患の病態に関与していることが示されている。 Th17細胞の分化に不可欠な転写因子であるRORγtを過剰発現するトランスジェニックマウス(RORγtTgマウス)の脳の変化を調べたところ、ミクログリアの密度が海馬歯状回で著名に低下していることが判明した。一方、NMDA受容体サブユニット2A, 2B, PSD-95, PSD-93などのシナプスに局在するタンパク質のレベルに有意差は認められず、新規物体探索テストでも有意差は認められなかった。一方、マウス胎児の側脳室にリコンビナントIL-17を微量注入したところ大脳皮質ミクログリアが活性化され、多くのミクログリアがアメボイド型に変化すると共に局在も変化することを見出した。以上により、IL-17Aを介した免疫反応のターゲット細胞はミクログリアであるが、IL-17Aのミクログリアに対する作用はコンテクストにより差異があり背景に複雑な制御機構の存在を予想させる。更に我々はマウスに二本鎖RNAであるPolyI:Cを投与しサイトカイン産生を増強すると神経伝達物質受容体を輸送する分子モーターKIF17が上昇することも明らかにした(投稿中)。以上から、既に自己免疫疾患の治療薬として確立されているIL-17Aの抗体等を、精神・神経系の病気の予防・治療に応用する可能性が今後期待されるが、同時にIL-17Aの作用機構の詳細を精査することも重要であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
胎児脳においてIL-17A単独でミクログリアを活性化できることを始めて直接的な実験で示し、Maternal Immune Activationによる胎児脳障害において中心的な役割を果たす細胞がミクログリアであることを始めて明らかにした。また、サイトカイン産生を増強させた状態で神経伝達物質受容体を輸送する分子モーターKIF17が上昇することを明らかにした。これらはIL-17Aによる胎児脳障害の原因を考える上で重要な知見である。
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今後の研究の推進方策 |
Th17細胞への分化を抑制する薬剤(ヒトの関節リウマチ等の治療薬Tocilizumabと同等の作用がマウスで確認されているMR16-1等)をマウスに投与し胎児脳障害の予防効果を調べる。KIF17等を中心に、IL-17Aによりミクログリアの細胞内輸送機構に変化が生じる可能性を神経細胞生物学的に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ミクログリアの免疫組織化学の立ち上げ等が予定よりも順調に進展し、立ち上げにともなうトライアルアンドエラーを最小限に留めることができたため、次年度使用額が生じた。使用計画であるが、この次年度使用額は抗体の購入や遺伝子導入実験に使用する。これらの実験は高コストであることから次年度使用額は有効に利用される。
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