研究課題/領域番号 |
19K06919
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
杉原 泉 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (60187656)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | げっ歯類 / Aldoc / 小脳 / 非運動機能 / 第I脚 / 脊髄小脳投射 / プルキンエ細胞 / スライスパッチクランプ |
研究実績の概要 |
ヒト小脳で巨大な体積を占める後葉半球部の小葉(第I脚、第II脚)は、臨床症状や画像解析から、体性運動機能よりも非運動機能にも関与することが知られている。このことの神経回路基盤を理解することが重要であるが、そのためにマウスモデルを用いて研究する場合、動物間の小葉の相同性が問題となる。多彩な研究方法を利用できる齧歯類の小脳においては、半球部中央の第I脚と命名された1つの小葉のみがヒトの第I脚・第II脚に相当することをわれわれはこれまでに明らかにした。それに基づき、マウスを用いて、精緻な手法(単一軸索投射解析、Aldoc-Venusマウスでの両方向性蛍光トレーサーによる高効率神経回路解析、マウス行動解析、形成発達機構解析、電気生理学的解析)による系統的解析を行い、小脳の非運動機能の神経回路基盤を解明するのが本研究の目的である。単一軸索投射解析、形成発達機構解析、電気生理学的解析、Aldoc-Venusマウスでの両方向性蛍光トレーサーによる高効率神経回路解析を大学院生で分担し進展中である。それらの解析のなかで、2021年度には、小脳苔状線維の単一軸索の投射パタンの解析に関して、腰髄レベルの脊髄から小脳に至る軸索投射のパタンを明らかにし、非運動機能に関与すると考えられる第I脚などの小葉には投射しないことを確認した。さらに、第I脚にはAldoc陽性のプルキンエ細胞が多く陰性のプルキンエ細胞は少ないことから、第I脚の機能の特異性に寄与する両プルキンエ細胞の興奮性と細胞内情報伝達系の違いを電気生理学的な解析から明らかにした。以上のように、小脳の非運動機能の神経回路基盤に関する重要な特徴を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
開始から3年目となる2021年度において、本研究は、計画相応の伸展を達成していると考える。研究計画に含まれるほとんどの種類の実験を進展させることができた。研究代表者を責任著者とする2編の論文を国際誌に発表することができ、他に共同研究の論文1編、書著の一部4編も発表したた。これらの成果は、研究代表者と研究代表者の指導する大学院学生とで主要部分を担当した研究である。研究が進展した理由としては、本研究費(基盤研究C)を効率的に使用することができたこと、本年度は、留学生を含めた大学院生6名が本研究に参加してくれたこと、彼らの指導が順調にできたことが挙げられる。さらに、2020年度において、マウスの一時的飼育ができる実験室(第二種実験室)を設置することができ、2021年5月頃から利用できるようになったことが本研究の進展に大きく寄与した。また、研究手法自体が、あまり挑戦的な新規なものではなく、これまでの研究代表者の開発してきた研究手法やマウス系統を発展的に引き継いだものであることも理由に挙げられる。さらに、所属大学と所属研究室の基本的研究環境が整っていたこと、昨年度までのうちに大学院生の力量で順調に研究成果を挙げられる態勢を整えてきたことなどが挙げられる。 ただ、2021年度中には、本研究の重要部分でありながら、進展はしたものの論文発表にまでは至らなかった解析もある(大脳・橋核・小脳投射の解析、小脳の区画構造の生後発達過程の解析など)。これらは、解析の最中に、さまざまな複雑な特徴が見いだされたため、当初よりも時間がかかっている。そのため、全体として、当初の計画以上とは判断しなかった。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度において使用できるようになった、マウスの一時的飼育ができる実験室(第二種実験室)の利用を継続して、当初は研究室から離れていた大学の動物実験施設で行っていた動物実験の多くを研究室内で行うようにして効率化を図る。当初の研究計画のうち、重要だがまだ論文発表に至っていない計画を推進していく。特に、橋核へのAldoc-Venusマウスでの両方向性蛍光トレーサーによる、大脳・橋核・小脳投射パタンの解析、Aldoc-Venusマウスでの小脳皮質への両方向性蛍光トレーサーによる、下オリーブ核、橋核、小脳皮質、小脳核間での部位対応性投射の詳細な解析に関して、実験はほぼ終了したので、データをまとめることをめざす。また、小脳の非運動機能・運動機能の違いに関係する区画構造の発達過程に関してもこれまでの進展を発展させていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度において、2020年度からの次年度使用額があったこと、消耗品費用などにおいて十分に計画的に支出して経費をできる限り節減したこと、動物飼育費の一部に関して、他の経費からの支出ができたため、本科研費からの支出を節減できたことが、次年度使用額が生じたことの理由である。この次年度使用は、2022年度において、本研究を継続するために使用する。特に、備品の故障が生じた場合の修理費、研究成果を論文として発表するための経費、動物飼育費、物品費に充当する。
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