研究課題/領域番号 |
19K06931
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
榊原 伸一 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (70337369)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ニューロン / inka2 / Pak4 / アクチンフィラメント / 樹状突起スパイン |
研究実績の概要 |
inka2は哺乳類胎生期神経系において延髄や脊髄の腹側部脳室周囲のオリゴデンドロサイト前駆細胞や成体の大脳皮質や海馬などの前脳領域のニューロンに強く発現する。培養細胞にinka2を強制発現させると、アクチン線維の細胞内配置の異常が起こり、細胞形態が球状に変化し細胞接着の阻害や過剰な数のフィロポディアが形成される。我々はこれまでにNIH3T3のスクラッチアッセイによりinka2が接着斑(focal adhesion)の形成を調節し細胞移動能を制御することを明らかとしたが、その分子機構は不明である。セリン・スレオニンキナーゼであるPak4は、RhoGTPaseのエフェクター分子としてアクチン重合を制御する。今回、我々は脳組織及び培養細胞を用いた共免疫沈降や、inka2およびPak4組換えタンパク質を用いたキナーゼアッセイにより、Inka2-iBoxがPak4触媒ドメインに直接結合し、アクチン重合を抑制することを見出した。培養細胞に発現させたInka2はアクチンの脱重合を促進しPak4 活性を介した細胞突起の形成を抑制した。さらにInka2遺伝子のコンディショナルノックアウトマウスを作製した。β-ガラクトシダーゼレポーターにより、Inka2が大脳皮質ニューロンに強く発現していることが示された。Inka2-/-マウスの皮質錐体ニューロンでは、樹状突起スパインの密度が低下し、樹状突起の形態に異常が見られた。さらにInka2-/-マウスの大脳皮質ニューロンではPak4シグナルカスケードの下流分子LIMKとcofilinの顕著なリン酸化亢進が認められた。これらの結果から、Inka2がニューロンにおける内在性Pak4阻害剤として機能すること、樹状突起スパインの形成に必要なアクチンの再編成の重要なメディエーターであることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通りInka2 KOマウスの解析を進め、その樹状突起スパインの異常の表現型の解析を進めた。またInka2タンパク質の検出困難であることから転写後調節による翻訳抑制機構の存在を検証した結果、G4結合性のRNA結合タンパク質FMR1やTDP43による翻訳抑制が起きる可能性を示した。しかし,COVID-19の影響から2021年度の実験が制限されたため、詳細な翻訳抑制の分子機構の解明まで至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
アクチンフィラメントは様々な生理現象を制御する細胞骨格の基本的要素である。Inka2はPak4 活性の阻害タンパク質としてニューロン分化時のフィロポディア形成や樹状突起スパイン形成を制御していることが示された。今後、Inka2 KOマウスの樹状突起スパインの異常の生化学的、解剖学的特徴を明らかにする。Pak4を含むPakキナーゼファミリーはアクチン骨格制御の中心的因子として癌や神経発達、神経変性疾患などに関与することが知られているため、Inka2によるPak4活性抑制機能を利用した腫瘍形成抑制やスパイン形成を伴う神経疾患の治療などの可能性を検討する。Inka2がPak5、Pak6など他のGroupII Pakファミリーと相互作用する可能性も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響から2021年度の実験が制限されたため、Inka2 KOマウスの解析に遅延が発生し、詳細なマウス表現型解析が完了できなかった。
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