研究課題/領域番号 |
19K06936
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
大久保 洋平 順天堂大学, 医学部, 准教授 (40422282)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 代謝型グルタミン酸受容体 / カルシウム / イノシトール三リン酸 / シナプス / 蛍光イメージング |
研究実績の概要 |
Gタンパク質共役型受容体であるグループ1代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)は、イオンチャネル型グルタミン酸受容体(iGluR、AMPA受容体やNMDA受容体など)と共に、中枢神経系の後シナプスにおいてグルタミン酸作動性シナプス伝達を担っている。iGluRは主にシナプス間隙内部に局在し、シナプス電流を介して神経細胞の電気的興奮性を制御する。一方、mGluRはシナプス間隙の外側(ペリシナプス領域)に局在し、Gqタンパク質シグナリング、特にイノシトール三リン酸(IP3)/IP3受容体を介した小胞体からのCa2+放出などにより、シナプス可塑性を始めとした様々な機能を担っている。しかしmGluRシグナリングの生理学的解析法は非常に限られており、機能的意義発現機構の解明に向けた大きな障壁となっている。本研究では、研究代表者がこれまでに開発を進めてきた独自の蛍光プローブ群を応用し、シナプス伝達に伴うmGluRシグナリングの光生理学的解析法の確立を目指す。急性スライスおよびin vivo大脳皮質における錐体細胞のスパイン周辺においてmGluRシグナリング関連分子の動態を可視化解析することで、シナプスmGluRシグナリングの誘導/拘束条件と入出力特性を明らかにすることを目指す。昨年度までは蛍光グルタミン酸プローブEOSの新規バリエーション開発に主に取り組み、異なる二波長の蛍光強度比によりシナプス外グルタミン酸濃度の定量を実現する技術を開発した。本年度はこのratiometric EOSを用いたグルタミン酸スピルオーバーの解析に主に取り組み、グルタミン酸濃度の定量やその発火条件依存性などを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シナプス電流を惹起するiGluRとは異なり、mGluRシグナリングは電流を必ずしも伴わず、またシナプス周辺に限局してごく短時間の間に惹起されるものであるので、電気生理学的解析法も生化学的解析法も十分ではない。よって時空間的解像度を有するシグナル分子可視化技術を開発することが不可欠である。研究代表者はこれまでに、グルタミン酸プローブEOS、IP3プローブGFP-PHD、小胞体内腔Ca2+プローブCEPIAという独自の蛍光プローブを開発し、mGluRシグナリング動態の各ステップを可視化してきた。これらの手法をさらに発展させることで、mGluRシグナリングの光生理学的解析法を確立する。 本年度はシナプス伝達に伴うシナプス周囲のグルタミン酸濃度定量に取り組んだ。mGluRを活性化するためにはペリシナプス領域へのグルタミン酸スピルオーバーが必要である。従来のEOSによる解析では、グルタミン酸スピルオーバー現象を可視化することには成功していたが、その際のグルタミン酸濃度を直接的に定量出来ていなかった。そこで緑色および赤色の蛍光を発する2種類のEOSを一つの複合体に組み込むことで、蛍光強度比による定量を実現することを試み、昨年度にratiometric EOSの開発に成功した。このratiometric EOSを大脳皮質スライス標本に標識し二光子顕微鏡を用いて観察を行った。シナプス活動に依存して、局所的にシナプス周囲のグルタミン酸濃度がmGluR活性化に十分なレベルまで上昇することを確認した。このグルタミン酸スピルオーバーには単発のシナプス活動ではなく、高密度かつ高頻度連続発火による加算が必要であり、それがmGluRシグナリングの最小単位となると考えられた。以上より概ね予定通りに研究が進捗した。
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今後の研究の推進方策 |
以下の研究計画を推進する。 <1.グルタミン酸スピルオーバーの定量>mGluR活性化に必要なグルタミン酸スピルオーバーを惹起するには、単発のシナプス伝達では不十分で、時空間的にクラスターをなすシナプス伝達により、グルタミン酸が加算される必要性を確認した。前シナプス活動の強度とシナプス外グルタミン酸濃度の相関の詳細についてさらに解析を進め、mGluRシグナリングの誘導条件の全貌を明らかにする。 <2. 蛍光プローブの多色化>2種類の分子を同時イメージングすることで、入出力特性を解明する。これを達成するために、各プローブについて緑色および赤色蛍光バージョンを作成する。グルタミン酸プローブEOSについては、上述の通り既に緑色および赤色のものを開発済みである。IP3プローブGFP-PHDについては、GFP(緑色蛍光タンパク質)をRFP(赤色蛍光タンパク質)に置き換えたものを作製する。小胞体内腔Ca2+プローブCEPIAについては、すでに緑色型のG-CEPIA1erおよび赤色型のR-CEPIA1erを開発済みである。 <3. スライス標本およびin vivo大脳皮質における観察>上記で開発したプローブを大脳皮質標本に適用し、二光子顕微鏡を用いて観察する。急性スライス標本において、前シナプス活動強度を変化させ、各因子の時空間分布と相関を明らかにする。また生理的な入力で惹起される神経活動とmGluRシグナリングの相関を、in vivo観察により明らかにする。麻酔下の体性感覚刺激を主な解析対象とし、対応領野での観察を行う。浅麻酔-覚醒下の自発活動や刺激依存性活動も研究の進展を見極めながら対象とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により、実験の遂行に一時支障が生じたため、当初予算より支出が少ない状況で本年度計画を終えた。次年度においては、他の種類のプローブ開発やin vivo観察などの支出に充当する予定である。
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