研究課題/領域番号 |
19K06940
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
笠井 昌俊 京都大学, 医学研究科, 助教 (70625269)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 上丘 / 視覚野 / 経シナプス / 2光子顕微鏡 / カルシウムイメージング / 光遺伝学 / 化学遺伝学 / 抑制性細胞 |
研究実績の概要 |
本研究では,中脳の初期視覚中枢である上丘の視覚機能を明らかにすることを目的とする.特に,大脳皮質視覚野と上丘の間で作られる神経回路ループに着目 して,2つの脳領域でやり取りされる視覚情報の可視化,及び,神経経路を選択的に操作することにより,視覚応答にどのような影響があるかを確かめ,上丘と視覚野が作る神経回路の生理学的な意味をあきらかにする. 令和 2 年度は,前年度に引き続き.アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター による経シナプス感染法の可視化を行う際のウイルス注入部位の最適化を行った.経シナプス感染によって GCaMP を発現したマウスを作成し,V1 から投射を受ける神経細胞の視覚応答の記録に成功した. 逆行性 AAV ベクターと,光遺伝学法を組み合わせた実験は遅延がある.光刺激を行うカニューレの長さや角度を複数試したが,対物レンズとの接触の回避が難しく.通常のカニューレではなく,別の光刺激用のプローブを検討する必要があると判断した. 回路特異的な操作を行う方法として,光遺伝学の代わりに,化学遺伝学法を導入した.上丘に抑制性の DREADD 受容体である hM4Di を発現させ,DREADD 受容体の特異的な基質である DCZ を腹腔内注射した.マウス覚醒下において,同一個体,同一細胞集団の視覚応答を,2光子カルシウムイメージング法で観察する条件で,生理食塩水注入,DCZ 注入で実際に視覚応答が変化するかどうかの解析を始めている.この手法が有効に働く条件を検討し,上記の V1 から上丘への投射経路の神経活動操作,及び,上丘内の特定の神経細胞,例えば,抑制性細胞だけを選択に操作した場合の個々の神経活動,及び,細胞集団の神経活動様式がどのように変化するかを捉えることができると考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和 2 年度は,前半,COVID19 の感染拡大に伴う,研究活動の一部制限などにより一部の計画に遅延がある.特に,動物実験及び,研究室の滞在時間が減少したため,データを十分に取ることが難しい状況が発生し,全体として,データの取得数が減少している.また,逆行性 AAV ベクターと光遺伝学を組み合わせた実験の最適化(カニューレの挿入部位とイメージング領域の配置など)を進めることが難しかった. 一方で,別の神経活動の操作手法として,化学遺伝学を用いる実験の条件検討を開始できた.上丘の神経細胞に,抑制性の DREADD 受容体である hM4Di と GCaMP6f を発現させたマウスを作成した.覚醒下において,視覚刺激を提示し,上丘の神経細胞集団から,視覚応答を記録し,DREADD 受容体の特異的にな基質である DCZ を腹腔内注射した場合と,コントロールとして生理食塩水を注入した場合でのデータを取得し,解析を進めている. また,経シナプス方によって可視化した,V1から投射を受ける上丘の細胞の視覚応答,特に方位選択性や方向選択性について,合計5匹のマウスから,約 3000 個の神経細胞のデータを取得した.これまでに 関連した成果として,上丘と結合する脳幹の神経核である PBN が上丘に与える影響を光遺伝学で明らかにした成果の論文発表を行った(共著).光遺伝学的手法で,PBN から上丘への神経活動を抑制した場合に,上丘の神経細胞の多くは視覚応答が減弱するが,イメージングで特に表層部分を記録すると,視覚応答が増大する傾向にあることも見出している.また,上丘の方位選択性と方向選択性の変化に関する結果を論文にまとめている.
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今後の研究の推進方策 |
令和 2 年度に取得できた上丘の細胞集団の神経活動を視覚応答の解析を進める.V1から投射を受ける上丘の解析では,逆に,投射を受けないであろう細胞と区別し比較できるようにするために,神経活動を記録する GCaMP とは別の蛍光を用いて2色でイメージングを行う予定である.現在使用している2光子顕微鏡では,mCherry の赤色傾向がほとんど観察できていないため,tdTomato を発現させるベクターに変更予定である.比較したデータをまとめて論文作成を進めていく予定である. 化学遺伝学法を用いて,抑制性の神経活動制御は確かめたが,hM3Dq をもちいた興奮性側の神経活動制御が使えるかどうかも検討したい.抑制と興奮の操作によって,細胞集団の活動様式がどのように変化するかを解析予定である.一方で,光遺伝学法の最適化については,検討できなかった チップ LED や OLED フィルムを頭蓋骨表面もしくは脳表に張って刺激する手法を引き続き検討したい.特に,活動操作の時間制御においては,光遺伝学の方が利点が大きいと考えている.もしくは,興奮と抑制の操作を二つの手法を組み合わせて行うことも検討したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染拡大と緊急事態宣言発令による,実験動物,試薬の発注の中止と,学会の web 開催による旅費使用分がなくなったため.
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