研究課題/領域番号 |
19K06941
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
若園 佳彦 宮崎大学, 医学部, 准教授 (90377755)
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研究分担者 |
緑川 良介 宮崎大学, 医学部, 助教 (20470320)
高宮 考悟 宮崎大学, 医学部, 教授 (40283767)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | N型糖鎖修飾 / AMPA受容体 / 全反射蛍光顕微鏡法 / 一分子動態観察 |
研究実績の概要 |
最近、我々の研究室では、AMPA型グルタミン酸受容体(AMPA受容体)のサブユニットの一つであるGluA1の糖鎖修飾が細胞膜への発現制御に関与することを報告したが、詳細なメカニズムについては未だ不明のままである。そこで本研究では、一分子レベルでの動態解析が可能な全反射蛍光顕微鏡(TIRF)法を用いて、細胞内におけるGluA1の合成から分解までの素過程を追跡することにより、糖鎖修飾によるAMPA受容体の細胞膜への発現制御メカニズムの解明を目指している。 本研究計画は、①観察(TIRF)システムの構築、②糖鎖修飾を欠損した変異GluA1に蛍光標識した発現ベクターの作製、③①と②を用いての実際の観察に大別される。 昨年度は市販の倒立型蛍光顕微鏡を改良して、①のTIRFシステムの構築を試みたが、システムの要である全反射照明を作り出すための高開口数(NA=1.4以上)の対物レンズの入手に遅延が生じたため、通常の対物レンズを用いた“斜光”照明によりシステム最適化のための予備的実験を進めた。 今年度については、高開口数(NA=1.5)の対物レンズの入手し、昨年度構築したシステムにこの高開口数対物レンズを組み入れたことにより、①の観察システムの構築についてはほぼ完成形に達した。この観察システムにおける全反射照明光のしみ出し厚を概算し、さらに現在は蛍光分子などを用いてこの観察システムのさらなる最適化のためのブラッシュアップを試みると同時に、研究計画の②の発現ベクターの作製に着手している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
市販の倒立型蛍光顕微鏡の励起用水銀ランプの光源を取り外し、代わって青色レーザー光をダイクロイックミラー、高開口数の対物レンズへと導入した。その際、対物レンズからの射出光を平行光とするため、凹凸レンズを用いて、青色レーザー光の焦点を対物レンズの後側焦点面に合わせた。光軸を対物レンズの中心からズラすことにより、対物レンズからの射出光は傾き、異なる媒質の境界面ではやがて全反射となり、全反射照明光(エバネッセント光)が生じることを確認した。全反射光を得るための十分な射出光の傾きは、光軸の対物レンズ中心からのズレに依拠しており、故に高開口数(NA=1.4以上)の対物レンズが必要となる。 このTIRFシステムを用いて蛍光ビーズを観察したところ、良好な蛍光像が観察できた。また対物レンズからの射出光の傾きを計測し、Axelrodの式に代入することにより全反射照明光のしみ出し厚の概算値を得ることができた。 現在は蛍光分子などを用いてTIRFシステムのさらなる最適化のためのブラッシュアップを試みると同時に、研究計画の②の発現ベクターの作製に着手しており、作製次第、研究計画③の実際の観察を試みる。
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今後の研究の推進方策 |
概要に示したように、3つに大別される本研究計画のうち、①の観察(TIRF)システムの構築についてはほぼ完成形に達しており、②の糖鎖修飾を欠損した変異GluA1に蛍光標識した発現ベクターの作製については現在進行中である。発現ベクターの作製後、③の実際の観察を試みるが、一般にGFPを蛍光タグとしたGluA1(GFP-GluA1)では、小胞体でのGFP-GluA1の蓄積のため、背景光が増加し、signal/noise比(S/N比)を低下させることから、一分子観察は困難であることが知られている。そこで、この問題に直面した場合、以下の2つの方策を駆使することにより一分子動態解析のための条件の最適化を図る。 ①GFP-GluA1の発現量の調節:HEK293T細胞への遺伝子導入に際して、cDNA発現ベクターの量を調節することにより小胞体に蓄積するGFP-GluA1の発現量を抑え、背景光を減弱させる。但し、小胞体中のGFP-GluA1もまた観察対象であることから、極端な発現抑制は控える。 ②FRAP(光退色後蛍光回復)法の適用:強い励起光を照射することにより蛍光(背景光)を退色させ、その後に現れる新たな蛍光シグナルを追跡する。 それでもなお解決が困難な場合は、ZsGreenやHalo7などの他の蛍光プローブの使用の検討を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨今のコロナ禍により、この1年半、主に学会参加などを目的として旅費に計上した予算は執行されなかった。 さらにTIRFによる観察システムはほぼ完成し、蛍光ビーズを用いた観察では良好な結果が得られたが、既述のとおり、HEK293T細胞における蛍光標識されたGluA1の実際の観察においては、背景光の増加によるS/N比の低下などにより、一分子レベルでの動態観察の妨げになることが危惧される。そこで、当該年度の予算の一部を繰り越し、次年度の予算と合算することにより、低ノイズ且つ微弱蛍光が取得可能な撮像システム(EM-CCDカメラ)の新規に購入することを考えている。
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