今後の研究の推進方策 |
神経ペプチドFLP-2およびPDF-1が塩走性において果たす役割を明らかにする。FLP-2を過剰発現した線虫株は、飢餓条件後の塩走性に欠損を示す。この表現型は受容体として知られているFRPR-18欠損によって抑圧される。一方、flp-2またはfrpr-18の変異体は塩走性に顕著な欠損を示さない。以上のことから、FLP-2の過剰発現による塩走性の欠損は、生理的な制御を逸脱したFLP-2がFRPR-18受容体を介して飢餓後の塩走性を攪乱することが原因であると推測される。餌の認識に関与しFLP-2の分泌を促進することが示唆されているPDF-1についても、FLP-2と同様、変異体は顕著な表現型を示さない。FLP-2およびPDF-1がもつ生理的な役割について知る手がかりを得るため、受容体の作用細胞を同定し、神経回路の塩応答がペプチドによっていかに調節されるか調べる。飢餓条件による行動の調節には、インスリンシグナル伝達経路が関与している(Ohno et al., 2014, Nagashima et al., 2019, Tomioka et al., 2022)。ペプチドの過剰発現はこれを抑制しているかもしれない。両者の遺伝学的な関係を調べる。FLP-2とPDF-1は、個体の活動レベル(静止と覚醒)の調節に関わることが知られている(Chen et al., 2016)。また最近、介在神経から分泌されるFLP-2が飢餓やストレスによる耐性幼虫形成の制御に関わることが報告された(Chai et al., 2022)。これらの研究は、FLP-2やPDF-1が他のシグナルと並行して、餌のシグナルとしてはたらく考えと矛盾しない。この可能性を検討する。セロトニンやドパミン、MAPKなどが餌のシグナル伝達を担うことが知られている。これらと神経ペプチドの関係を調べる。
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