研究課題/領域番号 |
19K06954
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
片岡 直也 名古屋大学, 医学系研究科, 特任講師 (20572423)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マルチファイバフォトメトリ / ストレス / 前頭前皮質 / 視床下部 / 体温上昇 / ストレスホルモン |
研究実績の概要 |
心理ストレスは動悸や体温上昇といったストレス反応を引き起こす。しかしながら、心理ストレスによる反応や病態を引き起こす神経回路基盤には不明な点が多い。ストレス疾患の病態解明が進まない原因として、複雑な脳内ネットワークの解析が困難であることや、心理ストレスの種類や強度によってストレス疾患の表現型が様々に変化することが挙げられ、その解析の難しさに拍車をかけていると考えられる。 研究代表者は心理ストレス反応を引き起こす神経経路の探索を行う中で、前頭前皮質腹側部(vmPFC)の神経細胞群が、ストレス信号を統合する視床下部背内側部(DMH)へストレス信号を伝えることで、心理ストレス性の交感神経反応を惹起することを見いだした(Kataoka et al., 2020)。前頭前皮質の背側部(dmPFC)はこれまでストレス反応を抑制する脳領域であることが報告されている。研究代表者は、前頭前皮質より上位に位置する多数の神経核が複雑な神経ネットワークを形成していると予想し、ストレス反応を惹起する腹側部と、ストレス反応を抑制する背側部のそれぞれに入力する上位の神経ネットワークの全容を明らかにする。複数の脳領域で構成される神経回路ネットワーク全体のバランスを捉えるために、神経細胞の活動をin vivoで多点光計測するマルチファイバフォトメトリを導入し、ストレス反応と神経伝達路の活動相関を捉えることでストレス神経回路の全貌解明を目指す。神経回路の活動変化と、熱産生や血中ストレスホルモン濃度の変化などとの連関を網羅的に捉えることで、心理ストレス反応の発現に関わる高次中枢神経ネットワーク機構を明らかにすることを目的とする。現在までにストレス信号をvmPFC へ入力する脳領域を同定済みであり、本研究で構築したマルチファイバフォトメトリを活用し神経活動の変化を解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度の実験から、前頭前皮質へストレス信号を入力する脳領域として、情動に関与する神経核やストレスホルモンの受容に関与する神経核などが明らかになった。2020年度は上記の神経核を対象にマルチファイバフォトメトリを利用した神経活動の解析をMATLABを用いて行う計画であった。しかしながら、GCaMP6 を励起するためのLED光源の制御と、神経活動を撮影するためのsCMOSカメラの制御を行うMATLABスクリプトが一部正常に動作しないトラブルに見舞われた。MATLABに詳しい研究者とのスクリプトの内容の確認や、データ取得用のPCI ボードの接続、カメラとLED制御装置の接続様式の確認など詳細に行ったがMATLABを用いた励起光の照射と光強度の制御、カメラの撮影頻度の制御などの問題解決には至らなかった。そこで、LED光源を別のメーカーの物と換装し、LEDとsCMOSカメラの制御を同一ソフトウェア上で行える仕様に変更した結果、励起光の照射と光強度の微調整、ならびにカメラによる撮影が問題無く行えることが確認できた。 現在、AAVを用いてGCaMP6s を前頭前皮質へ導入し、その直上へファイバカニューラを留置した動物からカルシウムイメージングを行い、励起光の照射頻度や光強度の微調整などの条件検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度については、同定したvmPFCの上位の神経細胞群のうち、最もストレス反応への寄与が大きいと考えられる細胞群へeArchT3.0を導入して選択的に光抑制し、ストレスで惹起される自律生理反応(体温・血圧・脈拍の変化やストレスホルモン分泌など)にどのような影響が生じるかを調べる計画であったが、マルチファイバフォトメトリの構築に多大な時間を要してしまい、ストレス負荷時の神経活動の解析には至っていない。しかしながら、LED光源を従来の物とは別の装置に換装し、LEDとsCMOSカメラ制御をMATLABから別のソフトウェアに変更したことからマルチファイバフォトメトリが正常に動作し、現在は神経活動の取得が可能な状況になっている。今年度は、遅れている実験計画の予定を取り戻すため、早急に実験を進める。さらに、vmPFCへストレス信号を入力する神経核から、視床下部背内側部へ投射するvmPFCニューロン群への入力を調べるため、GCaMP6sを発現させるAAVrgをvmPFCへ注入し、jRGECO1(赤色Ca2+プローブ)を発現させるAAVrgをDMHにも注入を行う。この実験を行うことで、DMHへ投射するvmPFCニューロン群とvmPFCの上位の脳領域の両方の神経活動を同時に計測することが可能となる。また、当初の計画では、複数の脳領域を対象にしたGCaMP6s のカルシウムイメージングには直径400 um のファイバカニューラとそれに接続するバンドルファイバーを用いる計画であったが、直径400 um のバンドルファイバーが2本以上マウスの頭上に接続されるとマウスの行動を大きく制限してしまうことが明らかとなった。このことから、ファイバカニューラとバンドルファイバに用いる光ファイバーの直径を200 um に変更し、光ファイバーの軽量化を行う計画である。これらの成果をまとめ、成果の発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は前頭前皮質へストレス信号を入力する脳領域を対象にマルチファイバフォトメトリを用いてカルシウムイメージング並びに、脳領域同士の接続解析を行う予定であった。しかしながら、MATLABスクリプトが一部正常に動作しないことから、その確認作業に時間をとられてしまい進捗に遅れが生じ、次年度使用額が生じた。2020年度末に装置の一部を換装し、セットアップ自体の再構築を行った結果、マルチファイバフォトメトリが問題無く動作したことから、次年度はvmPFCもしくはdmPFCへストレス信号を入力する脳領域の神経細胞の活動を計測する。これらの実験から得られた新たな知見を国内外の学会で発表するため、未使用額をこの旅費へ振り替える。また、残額は、現在進行中の実験に必要なウイルスベクター作製や、行動実験に必要な機器のセットアップに要する消耗品の購入に使用する。
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