研究実績の概要 |
心理ストレスは動悸や体温上昇といったストレス反応を引き起こす。しかしながら、心理ストレスによる反応や病態を引き起こす神経回路基盤には不明な点が多い。ストレス疾患の病態解明が進まない原因として、複雑な脳内ネットワークの解析が困難であることや、心理ストレスの種類や強度によってストレス疾患の表現型が様々に変化することが挙げられ、その解析の難しさに拍車をかけていると考えられる。 研究代表者は心理ストレス反応を引き起こす神経経路の探索を行う中で、前頭前皮質腹側部(vmPFC)の神経細胞群が、ストレス信号を統合する視床下部背内側部(DMH)へストレス信号を伝えることで、心理ストレス性の交感神経反応を惹起することを見いだした(Kataoka et al., 2020)。前頭前皮質の背側部(dmPFC)はこれまでストレス反応を抑制する脳領域であることが報告されている。研究代表者は、前頭前皮質より上位に位置する多数の神経核が複雑な神経ネットワークを形成していると予想し、ストレス反応を惹起する腹側部と、ストレス反応を抑制する背側部のそれぞれに入力する上位の神経ネットワークの全容を明らかにする。複数の脳領域で構成される神経回路ネットワーク全体のバランスを捉えるために、神経細胞の活動をin vivoで多点光計測するマルチファイバフォトメトリを導入し、ストレス反応と神経伝達路の活動相関を捉えることでストレス神経回路の全貌解明を目指す。研究開始当初は実験セットアップの立ち上げに時間を要したが、適切な光ファイバーの選択や明るいGECI の選択により、前頭前皮質へ入力する脳領域の神経活動を同時記録することに成功した。今後は、この神経回路の活動変化と、熱産生や血中ストレスホルモン濃度の変化などとの連関を網羅的に捉えることで、心理ストレス反応の発現に関わる高次中枢神経ネットワーク機構を明らかにしたい。
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