研究課題/領域番号 |
19K06956
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
野村 貞宏 山口大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (20343296)
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研究分担者 |
森山 博史 山口大学, 医学部附属病院, 助教 (40816633)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | febrile seizure / TRP / GABA / active potential |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、熱性けいれんの特徴(乳幼児期に発症する、体温上昇期に起こり高熱ピーク時にはない等)を分子生物学的に解明し、発作予防法を探ることである。そのために①マウスに体温計を留置し、加温によって体温が上昇し、痙攣が発生することを確認する。これをマウスの年齢によって比較する。②温度感受性受容体であるtransient receptor potential channel の脳内発現を調べ、それらのKOマウスとWild typeを用いて発作閾値、頻度、程度を比較する。 2019年度は熱性けいれんモデルを作成した。当初の予定であったヘアドライヤーによる体温上昇法での再現性が悪かったため、高温チャンバーモデルというヒートランプを用いた方法を試みた。外気温(室温)を26-28℃に維持し、生後10-14日齢の雄C57BLマウスをチャンバーに入れた。チャンバーはガラス製で、自由に動き回るスペースがあり、発作を観察することができる。直腸内とチャンバー内にそれぞれ温度センサーを留置し、モニタリングを行いつつ、チャンバーの上からヒートランプを当てた。直腸温は実験開始時33.5℃で、加温開始から9分後に38.5℃に達した。その後も直腸温は上昇を続け、11日齢のマウス10匹では39.0℃から41.2℃の間、平均39.9℃でけいれん発作が発生した。加温を停止し、チャンバーの天井を室温下に開放すると発作は頓挫し、直腸温も減衰曲線を描いて低下した。発作後はしばらく動作を停止していたが呼吸停止例はなく、数時間後には回復した。本研究により、Wild typeマウスでの発作閾値となる直腸温は約40℃で、その全段階として38.5℃以上が約10分維持されたとき、と判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
熱性けいれんモデルを確立し、高い再現性で発作を発生させることに成功した。文献、あるいはモデル動物により熱性けいれんの定義が異なっていたが、それらの中から本研究における定義を定め、直腸温が38.5℃以上を10分間以上維持し15分が経過するまでに、10秒以上の強直性または間代性けいれんを認めるか、10秒未満の同様の発作を2回以上認めるもの、にまとめた。これにより、観察者間による陽性陰性の差がない実験を遂行することが可能になった。ヒト幼児の熱性けいれんとWild typeマウスの熱性けいれんは発生条件がやや異なることが判明した。ヒトの熱性けいれんは体温が38℃付近と比較的低く、かつ正常体温から39~40℃に上昇する途中で発生することが多い。一方マウスでは38.5℃以上が10分以上持続された後に40℃付近に達して発作に至った。両者間に2℃の開きがあった理由は解明できていない。ヒトの熱性けいれんで発作に至るまでの高体温持続時間はこれまで不明であった。38℃未満の幼児は発熱による症状を呈しにくいため、38℃付近でどの程度微熱が続いていたのかを測定できないからである。本研究ではマウスで10分以上というデータが得られたので、これを参考にヒトでの研究を進めることが可能と思われる。以上が当初の予定および予定以上に得られた結果である。 一方、TRPチャネルに関する研究は現在までのところ開始できていない。TRPM8KOマウスおよびTRPV4KOマウスを所有し、実験環境を整備するにとどまっている。モデルの実験プロトコール、てんかん発作の判定基準がWild typeと同じで良いかどうかを探っている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は熱性けいれんとTRPチャネルについての研究を開始する。P7、P14、P42 マウスの脳断面の免疫染色、Western blotにより、TRPM8、TRPV4、TRPV1、TRPV2各チャネルの脳内発現部位および発現量の比較を行う。P14マウスで発現量がピークに達し、P42では低下していると推測する。 TRPM8KOマウスおよびTRPV4KOマウスを用い、高温チャンバー法で熱性けいれんを発症させる。Wild type マウスと比較し、体温上昇の違いや痙攣発生閾値の差、および異常脳波の差を確認する。P14マウスにおいて発作が発生、もしくは異常脳波が発生することが、同様に生ずるかどうかにも注目する。 TRPV1とTRPV2の作動薬および阻害剤を投与したP14マウスに高温チャンバー法で熱性けいれんを発生させる。作動薬では脳温が低いうちにけいれんが発生し、阻害剤では脳温が42℃に達しても発作が発生しない、もしくは発作およびてんかん性異常波の程度が軽いことが予想される。 P14のTRPV1 KOマウス、TRPV2KOマウスを高温チャンバーに入れて、熱性けいれんが誘発されない、もしくは発作およびてんかん性異常波の程度が軽いことを確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額が少額になったため、その金額に合う物品等の購入ができなかった。 次年度の予算と合わせて、実験動物購入に充てる予定である。
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