研究実績の概要 |
脳梗塞は重篤な後遺症を残し、患者のQOLは極めて不良である。 現在有効性が証明されている血栓溶解療法(t-PA)は適応が極めて限られており、多くの症例において十分な治療が行えないため、新規の治療法の開発が急務である。 2007年に, 水素ガスの吸入が脳梗塞後の神経機能障害を著明に改善することがモデルマウスで示されてから既に10年を経た。しかし, 水素ガスの受容体・情報伝達機構と生理作用との因果関係の分子機序は手付かずの状態であり, 臨床応用を展開するにあたり大きな障壁となっている。本研究は, 脳虚血病態における水素ガスの標的分子・受容機構を探究し, 分子状水素によるエネルギー代謝の代償機転の機序を解明することを目的とする。ガス分子は, 高分子の構造内に比較的容易に浸透し, リドックス感受性ナノトランスデューサーである金属原子への配位結合や, 官能基への特異的な結合を介して標的分子の機能を修飾し, 生物活性を発揮する。ガス分子の作用は, 可逆的・即効的で、かつ 多元的な標的をもつことを特徴とする。それ故に, ガスとその受容体が時間的・空間的に複雑な相互作用を形成する生体内において, ガス分子の生成・受容及び情報伝達機構と生理作用との因果関係は十分に立証されていない。最大の障壁は、ガス受容体の探索・代謝制御における役割を系統的に解析する方法の欠如である。この問題を以下のアプローチにより解決する。第一に、複数の生成・受容系を包括的に解析するメタボローム実験系, 第二に、ガス分子の標的を代謝物のin vivo-profilingにより空間的・定量的に探索する定量的質量分析イメージング法である。これまでのin situの系では捉えにくかったガスリガンドとセンサー蛋白の相互作用を、直接的に構築し、「水素吸入がなぜ効くのか」の分子基盤を徹底的に解析し、臨床医学研究への橋渡しを目指す。
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