研究課題
本研究はうつ病の神経脱成熟障害仮説の検証を目的とし、病態の解明と並行して、マウスのうつ様行動の新規評価系の開発を進めている。第二年度の実績は以下の通りで、新規行動評価系の条件検討を主に行った。1)マウスの皮下にRFIDタグを留置し、集団飼育下における個体識別を可能にした。4個のコンパートメント(居住コンパートメント1個+探索コンパートメント3個)に分かれた特殊ケージで飼育し、コンパートメント間の移動をセンサーによってモニターした。移動回数、各コンパートメントの滞在時間、単独行動傾向などを定量化し、活動性、探索欲求、社会行動などの指標となる行動データが取得可能になった。しかし、センサーの検出感度に問題があり、10%以上の検出ミスが生じていた。この点を改善するために、センサー周辺の形状やメモリの検討を行い、最終的に検出ミスを0.5%以下におさえることができた。2)拘束ストレスによる行動変化と海馬神経機能変化を解析した。ストレス負荷群において、一般に用いられるうつ様行動や不安様行動のテストでは有意な変化が見られなかったが、個別飼育下におけるケージ内活動の低下が見られた。集団飼育下では活動量低下が抑制される傾向があり、さらにこれらの行動変化と海馬神経細胞の機能的成熟度の変化との間に関連が見られた。これらの結果は、本研究の仮説を支持する結果と言える。3)コレステロール生合成経路阻害薬の効果を検討した。飼育環境や同時に行う処置に依存して、海馬神経細胞の成熟度変化を抑制する効果と促進する効果の両方が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
第二年度に計画していた、新規行動評価系の条件検討はほぼ終了した。また、拘束ストレスを用いた実験によって、本研究の中心仮説を支持する結果が得られ始めている。コレステロール生合成経路の解析に関しては、仮説を支持する結果に加えて、予想外の結果も得られた。今後仮説の部分的修正を加えながら研究を進める必要が生じる可能性があるが、研究計画全体としては概ね予定通り進んでいると言える。
1)拘束ストレスによって生じる海馬神経細胞の変化と行動変化の関係を詳細に解析する。コンパートメントケージ(豊富環境)における、ストレスによる行動変化を確定し、個別飼育との違いを明らかにする。同時に、海馬神経細胞の成熟度について、機能的側面に加えて分子マーカー解析を行って詳細に検討し、神経成熟度の調節と行動変化との関係を明らかにする。抗うつ薬の慢性投与によって、ストレスによる行動異常と神経成熟度の変化が改善することを確認する。また、神経成熟度の指標ではないが、成熟度の変化と関連して、ストレス負荷によって海馬神経細胞機能が顕著に変化することを示唆する結果も得られているため、この点に関しても詳細に検討する。2)コレステロール生合成経路の阻害薬によって神経成熟度の変化が抑制される条件を確定し、コンパートメントケージでのストレスによる活動量低下を増強する可能性を検討する。その際の社会行動等の変化も詳細に解析し、ストレスによって生じるうつ様行動を総合的に評価する行動指標を確立する。3)ストレスによって生じる神経細胞の変化を、AAVを用いて海馬特異的に操作し、うつ様行動の発現に及ぼす効果を検討する。以上の解析結果を統合し、ストレスによって生じる海馬神経成熟調整の障害がうつ様行動の原因となり、そのレスキューが抗うつ作用に結び付く可能性を検証する。
人件費に経費を計上したが、希望の人材が見つからなかった。次年度の経費に上乗せするとともに、最終年度は論文発表が予想されるため、その際にオープンアクセスジャーナルの掲載費として使用する。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Molecular Brain
巻: 14 ページ: 23
10.1186/s13041-021-00738-1