研究課題/領域番号 |
19K06963
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
眞部 寛之 同志社大学, 研究開発推進機構, 准教授 (80511386)
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研究分担者 |
村田 航志 福井大学, 学術研究院医学系部門, 助教 (10631913)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 嗅覚 / 嗅皮質 / 視床下部 / 電気生理 / 光遺伝学 |
研究実績の概要 |
匂い情報を行動出力に変換する経路を明らかにすることを目的とする。特に、嗅皮質から視床下部に投射する経路について、その機能を明らかにすべく研究を進めてきた。当該年度は、まず、当初のターゲットである、腹嗅核(ventral olfactory nucleus、VON)の機能的解析と、解剖学的解析を進めた。頭部固定下で、匂いの種類によって報酬である水がもらえたり、罰としてair puffが出る条件付け課題を確立し、本課題遂行中のVONから神経活動を記録する系を確立した。 VONニューロンが視床下部外側野のどのような細胞に投射するかを明らかにするため、シナプスを飛び越え1つ下流のニューロンに感染し、感染細胞にCreタンパク質を発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)をVONに投与し、視床下部外側野にCre依存的に蛍光タンパク質を発現するAAVを投与することで、VONニューロンが接続するニューロンの種類を明らかにする実験系を確立した。 匂いを手掛かりとした学習課題遂行中の前部扁桃皮質核(ACo)から神経活動を記録した。ACoはVONと同様に視床下部に直接投射がある。ACoニューロンは報酬と関連づけられた匂い刺激と、報酬獲得直前の報酬を期待する場面の両方で応答することが分かった。また、ACoのすぐ隣に位置する外側嗅索核(NLOT)のニューロンが、報酬に結びつく匂い刺激と報酬獲得時の両方もしくは、無報酬と結びつく匂い刺激と無報酬時の待機時の両方に応答することが分かった。すなわち、これらの領域は、匂い情報とそれに関連する情報を連合し、その連合様式は領域によって異なる。これらの成果は、匂い情報とそれに関連する情報を嗅皮質で連合するという、これまでにない全く新しい概念を提供するものである。また、腹側テニアテクタのニューロンが課題中のすべての行動状態を表象することを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
VON研究に関してデータを集めているところである。VONは極小領域であり、嗅皮質や側坐核などに近接しており、VONニューロン特異的に神経活動を記録する難易度が高い。VONを含む領域に電極を下ろして記録し、後で解剖学的に識別したり、VONニューロンに興奮性光感受性イオンチャネル(チャネルロドプシン、ChR2)を発現させ、光刺激でニューロンを同定する方法を導入したが、条件検討に時間を要した。光制御による行動制御実験も条件検討を行っている。 一方、比較のために、視床下部に直接投射する他の嗅皮質領域であるACoを調べたが、1つのニューロン上で、匂いと報酬期待の両方に応答するという予想外の結果を得た。また、ACoに隣接するNLOTニューロンからも記録し、NLOTニューロンが、匂い刺激とそれに紐づく報酬や無報酬情報の両方を連合することが分かった。これらの結果は、嗅皮質ニューロンが、匂い情報とそれに紐づく情報を連合する働きがあること、また、どのような情報を連合するかは領域によって異なること意味する。このような情報連合は、これまで嗅皮質で知られておらず、機能がほぼ不明であった嗅皮質の機能解明に大きく貢献すると期待される。当該年度で、NLOTニューロンの応答特性についてまとめ、国際誌に発表した。さらに、腹側テニアテクタが課題中の行動状態を表象することを発見し、国際誌に発表した。腹側テニアテクタからACoやNLOTに行動状態の情報を供給する可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
確立した頭部固定下の行動タスクを用いて、VONニューロンの応答特性を明らかにする。また、タスク中のマウスVONニューロンを光刺激することで、神経活動と行動出力の因果関係を明らかにする。また、ChR2の代わりに抑制性チャンネルであるアーキロドプシンを発現させて同様の実験を行う。これらの実験を通じて、VONニューロンが視床下部外側野を制御することで本能行動を制御しているかどうかを明らかにする。また、VONニューロンが、視床下部外側野のどのニューロンとシナプスを作っているのか、AAVや遺伝子改変狂犬病ウイルスを用いて解剖学的に明らかにする。 当該年度に予想外に発見された、ACoとNLOTの機能に関してさらに解析を進めていく。匂い刺激と報酬、無報酬や罰など、匂いとそれに紐づく情報の組み合わせを増やしたり、逆転学習を行うことで、これらの領域の情報連合様式をさらに明らかにする。また、これらの領域にChR2やアーキロドプシンを発現させ、光刺激や抑制を行動中に行うことで、神経活動と行動出力の因果関係を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
VONの光刺激を用いた実験の条件検討に時間がかかり、光刺激を用いた行動変容実験やニューロンの同定実験が当初の計画より遅れており、次年度に繰り越した。次年度では、それらの実験を行うため、ウイルスの購入、光刺激関連消耗品の購入等に充てる予定である。
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