研究課題/領域番号 |
19K06966
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研究機関 | 横浜薬科大学 |
研究代表者 |
塚本 裕一 横浜薬科大学, 薬学部, 教授 (70323037)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アレン / 軸不斉 / 中心不斉 / 共役エンイン / ヒドロアルキル化 / パラジウム触媒 |
研究実績の概要 |
特異な反応性を持つ有用な合成中間体であるアレンの触媒的不斉合成法として、0価パラジウム触媒を用いた共役エンインに対するプロ求核剤(H-Nu)の1,4-付加反応を開発することにした。本反応は一切の副生成物を生じないため原子効率に優れており、基質は薗頭反応によって1工程で調製できる。一昨年度、ビニル置換された内部アルキンを共役エンインとして用い、マロン酸エステル共存下、メタノール溶媒中、(η3-アリル)(η5-シクロペンタジエニル)パラジウム触媒、光学活性DTBM-SEGPHOS配位子、ヨウ化リチウム添加剤を作用させると、軸不斉をもつ光学活性アレンが得られることを見出した。また、重水素標識した共役エンインのヒドロアルキル化生成物を解析することにより、ヒドロアルキル化がシン選択的に進行していることも見出した。 昨年度は、基質をエチニル基で置換された内部アルケンとし、同反応条件に付すことにより、隣接した中心不斉をもつアレンを得ることとした。興味深いことに、前述の反応とは異なり、本反応においてはメタノール溶媒やヨウ化リチウムは必要ではなく、1,2-ジクロロエタン溶媒中において、隣接した中心不斉をもつアレンを高い光学純度で得ることができた。また、アルキン末端を重水素標識した共役エンインの生成物の解析によって、ヒドロアルキル化の立体選択性は発現していないことがわかった。これらのことから、本基質に対するヒドロパラデーションによってエキソ-アルキリデン-π-アリルパラジウム中間体の両エナンチオマーが生成した後、十分な平衡を経て、求核置換反応が進行したものと推測される。ヨウ化リチウムが不斉発現に必須でないことから、エキソ-アルキリデン-π-アリルパラジウム中間体の平衡が、内部アルキンを基質として用いた場合に比べて起こりやすいことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度はコロナ禍で学生の登校規制もあり、十分に研究できる環境が整わなかった。しかし、一昨々年より前倒しで研究を開始していたため、0価パラジウム触媒を用いた共役エンインに対するプロ求核剤(H-Nu)の1,4-付加反応により、隣接する中心不斉をもつアレンの触媒的不斉合成法を開発することができた。溶媒および添加剤の有無を検討することで、最適化条件を見出すことができた。基質適用範囲についても検討し、共役エンインのアルケニル置換基についてはE体かつ第一級アルキル基を含むものに限定されること、マロン酸エステル、アセト酢酸エステル、アセチルアセトンなどのプロ求核剤が利用可能なことがわかった。重水素標識した共役エンインのヒドロアルキル化反応生成物を解析することによって、ヒドロアルキル化が立体選択的に進行していないことも明らかとした。これは、ビニル置換された内部アルキンのヒドロアルキル化がシン選択性を示すのと対照的な結果である。この選択性の低下が、共役エンイン基質の構造上の違い(末端アルキン部位または内部アルケン部位)に起因するのか、反応条件として用いた非プロトン性溶媒に起因するのか、現時点では不明である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、0価パラジウム触媒存在下、マロン酸エステルなどの非金属性求核剤を用い、共役エンインのヒドロアルキル化(1,4-付加)を行なうことによって、生成物としてアレンを得てきた。続いて、求核剤をアリールボロン酸に換え、共役エンインのヒドロアリール化(1,2-付加)によって、3-アリール置換-1,3-アルカジエンを得ることにする。溶媒、触媒、配位子、求核剤および添加剤、濃度、温度などの反応条件が、ヒドロアリール化の位置選択性および立体選択性に与える効果について検証する。一般に、0価パラジウム触媒とアリールボロン酸を用いたアルキンのヒドロアリール化反応は、酢酸添加剤存在下、シン選択的に進行することが知られている。共役エンインを基質として用いた場合には、上述のヒドロアルキル化で観測されたような位置選択的かつ立体選択的なヒドロパラデーションを経て、アンチ選択的なヒドロアリール化が進行するか検証する。また、これまで得られた共役エンインのヒドロアルキル化およびヒドロアリール化の立体選択性から、共役エンイン上の置換基やプロトン源がヒドロパラデーションの立体選択性において与える影響を推測し、DFT計算によってその妥当性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度はコロナ禍で学生の登校規制もあり、十分に研究できる環境が整わなかった。昨年度行なう予定であった研究用の試薬・物品を購入し、今年度改めて研究を行なう。また、DFT計算用のPCおよびソフトウェアの購入、学会参加費、論文投稿用の英文校正などに利用する。
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