研究実績の概要 |
特異な反応性をもつ有用な合成中間体であるアレンの触媒的不斉合成法として、0価パラジウム触媒を用いた共役エンインに対するプロ求核剤(H-Nu)の1,4-付加反応を開発した。これまでに、ビニル基で置換された内部アルキンおよびエチニル基で置換された内部アルケンを、軸不斉または隣接した中心不斉をもつ光学活性アレンへと変換することに成功している。ビニル基末端の水素の一つを重水素標識した内部アルキンのヒドロアルキル化反応により、前者の基質についてはシン付加が進行し、反応中間体がアンチ選択的なヒドロパラデーションにより生じていることが示唆された。そこで、求核剤をアリールボロン酸に換え、本反応中間体に対するトランスメタル化・還元的脱離を経て、アンチ選択的なヒドロアリール化(1,2-付加)が進行すると考えた。一般に、0価パラジウム触媒とアリールボロン酸を用いたアルキンのヒドロアリール化反応は、酢酸共存下、シン付加体を与えることが報告されており、共役エンインを基質として用いることで立体選択性が逆転し、内部アルキンでは困難な位置選択性の発現も期待された。 再現性の獲得に困難を極めたヒドロアリール化反応であったが、アリールボロン酸については市販品に平衡混合物として含まれるボロキシンを水から再結晶することにより取り除き、重合可能な共役エンインについては調製後、速やかに使用することで問題を解決した。また、これまでの最適化条件では添加剤として水を用いていたが、電子不足なアリールボロン酸においてはメタノールの方が効果的であった。なお、配位子として電子不足なトリアリールホスフィンを用いた場合には、重水素標識した共役エンインのヒドロアリール化により、主生成物のアンチ付加体および副生成物のシン付加体のいずれもが、アンチヒドロパラデーションを経て生成していることが明らかとなった。
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