研究実績の概要 |
当該年度は、1,3,5-トリブロモベンゼンを反応基質として用い、1気圧の二酸化炭素雰囲気下、芳香族炭素(sp2)-水素結合のカルボキシル化反応の開発に取り組んだ。具体的には、複合ブレンステッド塩基として、各種アルコキシド塩基、アルカリ金属塩、配位子の組み合わせを検討したところ、LiO-t-Bu、CsF、18-クラウン-6-エーテルを用いた際に、目的の安息香酸誘導体が収率良く得られることを見出した。今回、高い反応性が得られた理由としては、安定なフッ化リチウムの生成を駆動力として、塩基性が高いセシウムアルコキシドが反応系内で形成したためと捉えている。加えて、18-クラウン-6-エーテルがセシウムカチオンに配位することも塩基性の向上に寄与する。また、研究当初に副反応として想定していた、ハロゲンダンス、ベンザイン形成、1電子移動型反応による脱ハロゲン化等よりも、望みのカルボキシル化反応が優先的に進行することも示した。一方、比較実験として、アルゴン雰囲気下、1,3,5-トリブロモベンゼンに複合ブレンステッド塩基を作用させた際には、複雑な反応系を与えた。このことから、本反応系は、炭素(sp2)-水素結合が脱プロトン化して生じるアリールアニオン種が二酸化炭素と速やかに反応できる環境にあるために、アリールアニオン種を起点とする副反応が抑制されたものと理解している。基質適応範囲についても検討し、2つのハロゲン原子を有する、1,3-ジハロベンゼン類もカルボキシル化の反応基質として用いられることを示した。さらに、今回のカルボキシル化反応は、求電子性官能基のシアノ基、ニトロ基、ケトン、アミド、スルホンアミド部位をもつ基質にも適応でき、高い官能基共存性を有することも明らかにした。
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