研究課題/領域番号 |
19K06972
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
谷口 剛史 金沢大学, 薬学系, 助教 (60444204)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 1,3-ジイン / 多環芳香族化合物 / ヒドロホウ素化 / 環化反応 / アレン |
研究実績の概要 |
前年度で得られた知見を活かして、求核的なラジカル種としてN-ヘテロサイクリックカルベン―ボランから発生させたボリルラジカルを用いた新しい反応の開発を行った。 本年度では、まず1,3-ジイン誘導体に対するボリルラジカルの付加反応を検討した。適切なアゾ系もしくは過酸化物系のラジカル開始剤存在下で、1,3-ジイン誘導体とN-ヘテロサイクリックカルベン―ボランの混合物を無極性溶媒中で加熱すると、低収率であるがヒドロホウ素化反応が進行することがわかった。興味深いことに、ヒドロホウ素化は1,3-ジイン誘導体の一方のアルキンでのみ進行し、またtrans選択的に進行していることがわかった。また、極性転換触媒としてtert-ドデカンチオールを添加したところ、反応が劇的に加速されヒドロホウ素化体の収率が大きく向上することがわかった。この反応はさまざまな1,3-ジイン誘導体に応用可能であった。この成果は論文として本年度中に公表することができた。 次に、ピレンなどの多環芳香族と共役したアルキンとボリルラジカルの反応を検討した。同様に適切なラジカル開始剤の存在下で共役アルキンとN-ヘテロサイクリックカルベン―ボランの混合物を無極性溶媒中で加熱すると、アルキンのtrans-ヒドロホウ素化に続いて、さらにホウ素上で芳香環部分への環化が進行したホウ素含有多環式化合物が低収率ではあるが生成した。芳香環への環化は、最初に生成したヒドロホウ素化体からさらにボリルラジカルが発生したために進行したと考えられる。 また、アレン類とN-ヘテロサイクリックカルベン―ボランのラジカル反応を検討している過程で、ラジカル開始剤なしでもアレン類へのヒドロホウ素化反応が進行することを見出した。この反応ではボリルラジカルは関与していないと考えられるが、N-ヘテロサイクリックカルベン―ボランの新しい反応として価値があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度で明らかになったプロパルギルアミド類からのラクタム形成反応の問題については未だ解決には至っていないが、本年度では他の有望な反応基質での検討を優先し、いくつかの新しい反応を見出すことができた。そのうちの一つは論文として公表することができ、その他のものも着実に結果が出つつある。それらを考慮すると、検討する基質や活性種に関して当初の計画から若干の変更はあったものの、ボリルラジカルの反応やそれに関連する反応に関して本年度も研究が順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、プロパルギルアミド類からのラクタム形成反応についての問題を解決する検討は継続する。それと並行して、本年度で見出した反応系のうち、ホウ素含有多環式化合物の形成反応とアレンのヒドロホウ素化反応に焦点を当てて、それらの反応条件の最適化と適用範囲の解明を行う予定である。これらに関しては、当初計画していた反応条件や活性種にとらわれない方策も検討する。例えば、ラジカル発生法として従来のラジカル開始剤を用いる熱反応だけでなく光反応や電解反応なども検討の対象に含める。また、見出された反応に価値があれば、ラジカル反応のみに固執せずイオン反応や協奏反応に基づいた反応設計への変更も柔軟に行う。そして、成果が得られ次第、順次論文として公表するとともに、新しいπ共役系材料への展開を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で参加を予定していた学会が中止もしくはオンライン開催になり、計上していた旅費を使用しなかったため。次年度も多くの学会がオンライン開催になると思われる。そのため、次年度の研究で検討する反応の種類を当初の計画より拡大することを検討し、残額分や当初旅費に充てる予定だった経費はそれらの実験に必要となる消耗品の購入に充てる予定にしている。
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